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恋するワルキューレ 第二部

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ヤワラちゃんみたいな女性は、ちょっとね……というのが裕美の本音だ。
そんなゆるい練習の中でローラン達から託された“強化メニュー”をあえて言えば、北の丸公園の坂を少し頑張って走るということだけだった。全力で走った後に少し身体を休めて――、再び全力で走ることを繰り返す。ハードなトレーニングの合間に休憩を挟むこの練習法を“インターバル・トレーニング”というらしい。
この周回練習こなした後は、カフェでグレープフルーツ・ジュースをたくさん飲みながら、大ぶりのデザートを食べるという別の“インターバル・トレーニング”を再びこなす。
おいおい、“インターバル”でもそれは違うよ!と言われそうだが、決してそんなことはない。
ローラン達と一緒に居て楽しいことの一つに、沢山のデザートやランチを遠慮なく食べれることがあった。世間では女の子がそんな大食いすれば奇異の目で見られる所だが、彼らも練習でカロリーを消費した後なので、カフェ一緒にデザートを楽しむのも“トレーニング・メニュー”の一つになっている。彼らもグルマンの国、フランスの人だけあって、男性でもデザートには目がない。
それに楽しいのは練習の時だけではなかった。ローランやシャルル達が裕美にファランクス・ジャージをプレゼントしてくれたし、チーム入会のウェルカム・パーティーを開いてくれた。アンリもシャルルも上品だが、やはり男でラテンの血が入っているためかノリも良くてジョークも上手くてとても楽しい。
何よりローランとも、二人きりで気兼ねなく会えるような関係にもなれた。ミーティングと称してローランをランチに誘い、他にもレースのための秘密兵器の購入?ということでロードバイクショップへ付き合ったりと、二人だけの"Rendez vous"《ランデブー》もできた。
そしてローランのことも少しづつ分かってきた。どうやら彼女はいないらしいことも分かったし、日本人の女の子は嫌いじゃないなどとも言ってくれた。裕美もちょっとは期待できそうだ。

さあ、後は本番あるのみ! 頑張ってローラン達を優勝させてあげなきゃ!

「オーイ、ヒロミ! こっち、こっち!」
「あー! 裕美センパイ、あそこにローランがいますよ。ローラン!」
舞が小さな身体ながらも、ラビットの様に走りながら、大きく手を振り返した。相当にご機嫌な様子だ。
「もう舞ったら! ローランが私に声をかけてくれたのに、間に割り込んじゃって!」
「フフフ……。センパイ、心配しないで下さい。わたしはアンリやシャルルと仲良くしてますから。ローランを横取りするようなことはしませんよ。何しろわたしを連れて来てくれたんですからね」
そう。今日、舞は裕美の付き沿いということで、この富士スピードウェイまでやって来た。“ファランクス”のチーム員でもない舞が来て良いものか裕美も少々迷ったが、レースということでサポート役が居ても悪くないだろうということで連れて来たのだ。
しかも舞は、ちゃっかり裕美のファランクス・ジャージを借りてここへ来ている。本来男性向けにデザインされたジャージだが、舞の可愛らしいロリータ・フェイスとジャージのミスマッチが、逆に女の子らしさを嫌みなくアピールするのに一役買っている。
それに今日の舞は、ボトムにデニムのミニスカートと白いスニーカーを着てカジュアルな雰囲気を醸し出し、ファランクスのジャージとも違和感なくコーディネートしていた。流石、ロワ・ヴィトンの社員と言わざるを得ない。
もう、舞ったら、本当にちゃっかりしてるんだから!
でも、イイワ。これからローランと一緒にガンバルんだから……。もし優勝したら、彼とお祝いして、そして……。
そんな皮算用と邪な妄想をしつつ、裕美と舞がローラン達のいるピットエリアに行くと、信じられない光景があった。

「やぁーーん! 舞、わたし帰るー!!」
「先輩、ダメですってばー! 帰っちゃったらローラン達が困るじゃないですかー!?」
「だって、あの人達、本気で睨んでいるのよー!」
「ローラン達と付き合うんです。それ位、どうだって言うんですかー?」
ローラン達のピットエリアには、何と10人以上もの女の子達が彼らを取り巻いていた。中には裕美が知っている女の子もいる。
そう、『ロワ・ヴィトン・ジャパン』で働く女の子達が、ローラン達の応援に来ていたのだ。その彼女達が、裕美と舞に突き刺さる様な視線を投げていた。

『あの女、確かリーガルの北条って女よね?』
『何よ!? あの派手なジャージ。薔薇が自分に似合ってるとでも思ってるのかしら?』
『ちょっと見て! あの小さい方の女、ローラン達と同じジャージ着ているわよ? もうチームに入ったっていうの?』
『あの二人、一体、どうやって抜け駆けしたのよ?』
『何よー! わたし達を差し置いて、アンリやシャルルと……』
『そうよ、あの女達……』
『『絶対許さない!!』』
声には決して出さないものの、その殺気のこもったの視線から、彼女らが何を言わんとしているかよーーく分かる。ローラン達の手前、彼女らも笑顔を絶やさないが、目が全然笑っていない分、尚更怖い。
 そんな彼女らが、ローラン達と裕美との間に有刺鉄線張りバリケードを作る様に、声を合わせて一斉に応援を始めた。
「ローラン、アンリ、シャルル。3人とも頑張ってね。私たち応援してるから!」
「そうよ! 私たちが応援してるから、絶対勝てるわよ」
フレフレ、ローラン!
フレフレ、アンリ!
フレフレ、シャルル!
イエーイ!

…………。
裕美と舞は彼女らを見て呆然としていた。
「裕美センパイ……、競争率高そうですね……。どうしましょう?」
「どうしましょうって? 舞、わたし帰りたーい! 彼女らに何をされるか分からないわよー!」
「だから、ダメですってばー! 先輩が帰ったら、ローラン達が困るし、わたしだってアンリやシャルルと仲良くなれないじゃないですか!」
「舞はまだ良いわよ! わたし、会社で苛められちゃう! いや、もしかしたら殺されちゃかもー!?」
殺されるオーバーだが、少なくともタダで済むとは思えない。
何せ裕美はローラン達の“パートナー”、もしくは“チームメイト”として、彼女らを差し置いて『図々しく割り込む』ことになるのだ。彼女らの怒りは相当なものだろうし、何より多勢に無勢。飢えたライオンの群れに小鹿が飛び込む様なものだ。
「さあ、センパイ! 行きますよ」
「いやあ、わたし無理よー! 舞、お願い。引っ張らないでー!」
「センパイ。恋は障害がある方が燃えるじゃありませんか。修羅場は女の花道です!」
「そんな話、フランスでだって聞いたことないわよー!」
「“Amour”《アムール》の国に居たんでしょ? 愛は奪うものだって知らないんですか!?」
「わたし、そんな奪ったことなんてないもん!」
「センパイ! 略奪愛は淑女の嗜みです!」
「淑女が略奪だなんて……。そんなことをする訳ないじゃなーい!!」
「レディだからこそ、男性がいなくちゃならないんです。ダンスは一人じゃ踊れません!」
「ソシアル・ダンスじゃないもん。バレエだったら、わたし一人だって踊れるわあ!」
「先輩、そんな弱気じゃ、ローランは寝取れません!」