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恋するワルキューレ 第二部

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3人ともフランス人ながらもアングロ=サクソン的な端正な顔立ちで申し分ないが、黒髪のアンリとシャルルよりも、日本人女性としてはやはり金髪のローランに憧れてしまう。
それにしても、ちょっと壮観だ。モデルの様な外人が3人も、お揃いのチームジャージを着て一緒に並んでいるのだ。ロードレースを知らない日本人なら、ファッション雑誌の撮影としか思えないだろう。実際、お店の女の子達はこちらを何度もチラチラ見ている。
そんな周囲の視線を受けて、裕美もつい優越感に浸ってしまう。
こんな人達と仲良くなれて、一緒に走れるなんて、最高に幸せ!
『ヒロミー、よろしくネ。それにしてもこんなスーパーレディがウチの会社にいるなんて思わなかったヨ、ヒルクライムで3位に入るなんてネ』
『それにエレガントなジャージだね! エクセラン! もしかしてヒロミがデザインしたのかい?』
初対面の挨拶もそこそこにアンリとシャルルが裕美にどんどん話かけてきた。彼らと話すのに気恥ずかしさがあった裕美だが、このフランス特有の気さくさは有難い。奥手の裕美も気軽に話せてしまう。
『そうなの。ロワ・ヴィトンみたいにオシャレなジャージが欲しくて作っちゃったの!』
『すごいネ。ヴィーナスの絵をジャージにしちゃうなんて、フランスでだって見たことないヨ。赤いバラもエレガントだし、裕美にピッタリだネ』
『ウンウン、バイクとジャージまでカラーリングを合わせてるんだから完璧だネ』
“C’est parfait!” 《セ・パルフェ》
『ありがとう。アンリ、シャルル。でもあなた達が着ているジャージだって素敵よ。あれ……? でもみんなが着ているジャージも見たことがないけど、もしかして……?』
『そうだヨ。これも僕達のオリジナルのジャージさ。ローランがデザインしたんダ。
『ええ!? ローランが?』
『もちろんだヨ。ローランはロワ・ヴィトンのデザイナーだからね。彼が僕らのチーム・ジャージをデザインしてくれたんダ。"Phalanx"《ファランクス》って言うチームなんだヨ』
そこには"Phalanx"というロゴと共に、長槍を持ち兜と鎧を身に纏う男達が描かれていた。
"Phalanx"《ファランクス》――。
それは古代ギリシャの重装歩兵達のことだ。
敵の倍程の長さの長槍を持ち隊列を組んで戦った彼らは、アレクサンダー大王と共に古代ギリシャ・オリエント世界を席巻した最強の軍隊だ。
彼らのそのジャージには、ミケランジェロの絵画の様に逞しい肉体を持つ兵士達の、まさに今戦わんとする姿が鮮やかに描かれている。エレガントさと芸術性を競うのであれば、裕美のジャージにだって負けてはいないだろう。
でもちょっとユニークなことに、そのジャージの胸や肩には長槍を持つ騎兵が二頭身にデフォルメされ、アニメ調のタッチで描かれていたりする。そんなコミカルな一面が、気取った嫌味さを打ち消して、素直に見る者を楽しませてくれる。そんな所も、ジャージのデザインをしたローランの性格を表しているかも知れない
『フフフ、ローランのデザインって面白いわね。クラシックな絵だけじゃなくて、こんな可愛いイラストが入っているなんて?』
『ハハハ、ありがとうヒロミ。日本のマンガみたいで面白いだろう? これって、シャルルのアイディアなんだ。彼、日本のマンガやアニメが好きでネ』
『なかなか良いアイディアだろう? でもアンリなんか、富士山を入れろって言って、ローランを困らせたりしたんだヨー!』
『ノンノン! シャルル、やっぱり富士山は外せないよ。日本に居るんだから、当然じゃないカ! 僕は富士山まで登ったんだヨ!』
『ウフフッ、アンリったら、それはダメよー! ギリシャのファランクスと富士山じゃ絶対変よー!?』
『アハハハーー! ほら、アンリ! 日本人のヒロミだって変だって言うじゃないかー!』
『ヒロミまでそんなことを言うのカイ!? キミは日本のジャポネーゼ《女の子》だろう?』
『うーん、アンリ。悪いけど、ちょっと“残念”かなー!?』

『うんうん、そうなのよーー! これが大変だったのー!』 
『分かるよー、バイクも……だからねー』
4人はそんなジャージやロードバイクの話を続けていた。他人から見れば他愛もない話でしかないが、同じ趣味を持つ者同士の会話は"ensemble"《アンサンブル》を奏でて、飽きる事のない楽しい音楽の様に聞こえてくるから不思議なものだ。ましてや同じアパレルブランドで働き、ファッションセンスも似ている彼らだ。ジャージのデザイン一つでも話が尽きることはない。
今日するはずの“練習”もそっちのけで、早朝のテラスでカフェを飲みながら話をしていた。裕美にとってはロードバイクやジャージの話もさることながら、今まで高嶺の華であったローランが一気に近づいてきたのだ。こんなうれしい話はないし、自然と話が弾んでしまう。
『でもどうしてロードバイクのジャージって、センスがないものばかりなのかしら? プロ選手の来ているジャージだって派手なロゴばかりのデザインで、どうしても着る気にはなれなかったのよね』
『僕らも好きじゃあないけど、プロはスポンサー・ロゴを付けて走ることで運営費を賄っているからネ。仕方ないんだヨ』
『ふーん、そうなんだぁ……』
『だから他のチームのジャージも、プロチームみたいにロゴを付けているのが多いんだよネ。でもロゴだけだとデザインもイージーになっちゃうからやっぱり面白くないからサ。それで僕らもジャージを自分らでデザインしちゃったって訳サ』
『そうそう! でもねえ、女の子が着るジャージだとバリエーションが少ないから、もっと深刻よー!』
『そうだネ。プロチームもアマチュアのチームも男性用にデザインされたものばかりだからネ。でも考えてみたら、『ファランクス』のジャージも女の子が着ることは考えてなかったヨ』
確かにローラン達のファランクス・ジャージには、ちょっとマッチョ気味の男達が書かれていて、愛と美の女神ヴィーナスとはあまりにもかけ離れている。
 でも、こうゆうのも良いんじゃないかしら――?
 裕美のセンサーが、ピピッと来た。こんな男っぽいジャージを着てみるのも、ありかも知れないわねぇ。
そうよ、ユニセックス風の中途半端なジャージなんかよりも、むしろ男っぽいジャージを着た方が断然クールよ! カジュアルでジーンズと一緒に着こなすのも素敵だわあ。
『そんなことないわよ! こんなクールなジャージを着るのも、男装の麗人みたいで素敵よ!』
『本当かい、ヒロミ! ローラン、それじゃあ裕美に僕らのジャージを着てもらおうヨ!』
『そうだネ。ジャージのデザインを女性用のサイズにアレンジする必要があるけど、面白そうだネ!』
『そんな、ローラン、悪いわよ』
『イイよ、ヒロミ。僕らも女の子がチームに入ってくれて嬉しいしネ』
『そうだよ。ヒルクライムで勝つくらい速い女の子が入ってくれるんだから、これくらいサービスしないとネ』
『ありがとう、ローラン。お言葉に甘えるから、今度お礼をさせてね』
『ハハハ、平気だよ、ヒロミ。おっと、そろそろ走りに行こうカ?』
『そうね。走るのを忘れちゃう所だったわ』

『エクセラン! ローラン達のバイクって凄いわねー』