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恋するワルキューレ 第二部

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「そうね。いい時間だし、そろそろ行きましょうか? デザートが美味しい店を知ってるんだけど、そこに行かない?」
「イイいですけど、デザートは裕美先輩だけが食べて下さいね。わたし先輩と同じもの食べてたら太っちゃいますよぉ。先輩ってうらやましいなあ。デザートばかり食べてるのにスタイルも良いし……」
「ええ、まあ……。わたしはあまり夜は食べないからね。フフフ……」
私ってそんなに食べてばかりいるように見られているのかしら? 美味しい物を沢山食べれるのはウレシイけど、ちょっと考えものね。
もちろん裕美が、太りもせず甘いデザートを食べられるのには理由がある。今朝は出勤前にロードバイクで軽く“トレーニング”をしていたからだ。運動をすれば当然カロリーを消費するし、その分お腹も空く。しかし別に裕美はシャカリキになってロードバイクを走らせている訳ではない。お気に入りのフレンチ・ポップスを歌いながら走る程度のイージーなペースで、むしろ気楽な“サイクリング”と言える程度のものだが、その方がかえって脂肪を燃焼させるには効率が良いし、無理をしない方が長続きするものだ。裕美は身体を動かすことは嫌いでもないし、それに美味しいものを好きなだけ食べれるとあって、出勤前の練習が日課になっていた。
「舞ー! こっちよ、この店なの。ここのサバランが美味しいの!」
「もう、先輩! 私はランチ・プリフィクスだけにしておきます。デザートまで頼むのは先輩だけにして下さいね」
「そんなこと言わないで、少し食べてみない……」
そんな他愛もない話をしている中、舞がふわふわのウェーブを揺らしながら振り向いて隣の席を見た
「あっ、先輩! あっちの席にローランが居ますよ。今日はラッキーですね! ……あれ? 彼が何かこっちを見てますよ!?」
「ふーん。ローランがね……」
裕美は特に関心もない“ふり”をして、素っ気ない返事をした。
裕美達からちょっと離れた席に、同じ『ロワ・ヴィトン・ジャパン』のデザイン部のローランが座っていた。巻き毛の金髪で背も高い彼は、まさに白馬に乗った王子様のような――。いや、白馬の王子様ではちょっと幼稚だし、裕美のイメージに合わない。裕美に言わせれば、バレエ『ジゼル』に出てくるヒロイン・ジゼルの恋人役『アルブレヒト』、もしくはワーグナーのオペラの主人公、白鳥の騎士『ローエングリン』と言ったところだろう。そんな彼は、外人イケメンの多い『ロワ・ヴィトン・ジャパン』の中でも指折りのルックスを持つ、日本人女性社員の憧れの的だった。
そんなローランだ。もちろん裕美も彼の事を知らないことはないし、裕美が「好みか?」と聞かれれば、諸手を上げて肯定することは間違いない。なのに、舞の言葉に「ふーん……」としか答えられない。この辺りが「男慣れ」していない裕美の弱点だろうか? それとも「乗り遅れた」だけに彼氏を選ぶことに慎重になってしまっているのだろうか? いずれにせよ、かなり“奥手”の部類に入る裕美だが、ローランであれば気にならない訳がない。
そんな裕美がローランをチェックすると、気のせいだろうか? こちらをチラチラと見ている様な気がする。雑誌を手にそれを読んでいる様だが、時折、裕美達に視線を向けるのだ。
「先輩、ローランをちょっと見て下さい! さっきから何度もこっちを見るんですよ。どうしましょう!?」
「そんな、意識のし過ぎよ。同じ会社なんだし、別にローランがわたし達のことを知っていても不思議じゃないでしょ」
「そんなことないですよ、先輩! 絶対、わたし達のことを見てます! どうしましょうわたし達から声をかけましょうか?」
「もう、舞ったら、恥ずかしいから止めてってば! 彼に声をかけて、やっぱりわたし達の勘違いでしたなあんて、恥ずかしい思いをするのはヤアよ」
舞の言葉を真に受ける訳でないが、舞にそこまで言われては、裕美もローランのことが気になってしまう。
裕美もチラチラとローランを見てみると――、
その瞬間、ローランと視線が合ってしまった。
ヤダっ! チラ見していたのが、彼にバレちゃったのかしら?
裕美がちょっと気まずい思いをしながら顔を赤くすると、意外や意外、そのローランの方から声をかけてきた!
「エエっと……。キミってリーガルのホウジョウさんだよね……?」
「ええ、そうだけど……」
「あの……もし良かったら、一緒にランチしてもイイかナ?」
裕美と舞は一瞬見合わせて驚いた。ロワ・ヴィトン・ジャパンで人気No.1のローランからいきなりナンパ同様のお誘いをされたからだ。ローランはそんな軽い人だなんて話は聞いたことはないんだけど……。でも、そんなことはどうだって良いわ! 今日は本当にツイてる!
"Oui, bien sur"《ウィ、ビアン・スール》
『ええ、もちろんよ』
ちょっと気が動転しながら返事をした。
「ホウジョウさん、実は……」
“Laurent、nous pouvons on pouvet parler le Franceaise...”
『ローラン、私たちフランス語を話せるから……』
『ホウジョウさん、この雑誌を見たんだけど、驚いたよ! ロードバイクに乗ってるなら、僕達に言ってくれれば良かったのに――』
裕美はローランの言葉に首を傾げ、何のことかしら?と思いつつも、彼が差し出した雑誌を開いた。どうやらロードバイク専門の月刊誌のようだ。裕美はパラパラと彼が教えてくれた記事を探し出すと――。
「あー! 裕美センパイが載ってる! しかもこんなに大きく!」
そこには裕美がヒルクライムレースで入賞した時の写真が大きく載せられていた。
ああっ! これって店長さんが撮った写真だわ!
そこにはヴィーナス・ジャージを着て表彰台に立っている裕美の姿や裕美の愛車『デローサ』、チーム『ワルキューレ』のみんなとの写真が裕美のインタビューも交え大々的に掲載されていたからだ。
それを見て裕美も驚いた。
裕美ももちろん“彼”の撮った写真がロードバイクの雑誌に載ることは前もって聞かされていた。しかしロードバイク専門誌などに興味のない裕美はその雑誌がいつ発売されるかも知る由もなく、裕美の記憶から放置されていたからだ。
何より驚いたのは、その写真の大きさだ。裕美がヴィーナス・ジャージを着てポーズ決めている写真が雑誌の誌面一杯に掲載されている。まるでファッション・ブランドのイメージモデルの様な扱いだった。
ウソー! こんなに大きく載っているなんて! 嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいわ……。インタビューって言うから、もっと地味な記事だと思っていたのに……。
「エー! 裕美センパイ、こんな自転車に乗っていたんだー!? 全然知らなかったー!」
舞も裕美の写真をみて驚いたようだ。仲の良い二人だったが、実は裕美は舞にロードバイクを乗っていることは話していなかった。彼氏目当てでロードバイクを始めたなどと、いくら妹の様な舞にも言えるものではなかったからだ。
「でもどうして、こんな雑誌にセンパイが載ってるんですか?」
「まあ、読者モデルみたいなものかしらね。知り合いに頼まれちゃって、断れなくてね……」