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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~現世編~

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「ベリー・コロン。汝はこんなことをしてただで済むと思っているのか? 罪を犯してまでやることか?」
「ああ、私は私の正義に従い動いているまでだ。君たちのように、頭を使わずに法に従えばよいとしか考えない馬鹿とは違うのだよ」
「しかし汝は間違いなく地獄に堕とされる。汝の正義が正しければ、おかしいことではないか?」
「神の御心に従うまでのこと。神のご加護があれば、私は地獄に堕ちないだろう」
「……もう気が済んだだろ、ベリー・コロン。私もここまで深手を負ったらもう動けない。今のうちに逃げるがいい。汝の勝ちである」
 ベリーが勝ったことを知った春江や仁木を始め、異形なる者達の間に歓声があがった。天使たちは、立場上、表立って喜ぶことができなかったが、明らかに安堵していた。
「何か勘違いしていないか? ロン君」
「何だと?」
「私の地獄行きを賭けた戦いであろう? 君が負けたら、君が地獄に行くべきではないか?」
「ベリー様。駄目です! やめてください! 天使様が地獄に行く必要は……」
 春江はベリーとロンの間に立ち、ベリーの行動を制した。
「見給えロン君。君が地獄に堕とそうとした春江さんが、君の命乞いをしているんだぞ? 君は、私が去った後、隙を見つけて春江さんのジュネリングを破壊しようと企てていただろ? たとえ、そうなったとしても、春江さんは君を守ったことに満足して、文句なんて一つも言わずに地獄に堕ちただろう」
 ベリーは次第に感情が溢れ出し、声を震わせながら訴えた。
「そんな人を迷いもせずに地獄に堕とそうとしていたんだ。それがどんなに愚かなことなのか分かっているのか!」
「もういいです……もういいですから……天使様が地獄に行くくらいでしたら、私が行きます」
 そう言いながらロンの前に立った。
「駄目だ! 春江さん!」
 ベリーは春江を突き飛ばし、ロンから離した。
「さあ君も天使だったら覚悟を決め給え」
「駄目です! 天使様!」
「君の選ぶ道は、春江さんを地獄に堕とすか、君自身が地獄に堕ちるかしかない。天使の良心に従い、適正に判断せよ」
「そんな……みんなが幸せになれる道はないのですか?」
 春江はすがるように懇願した。
「ここで春江さんを見逃せば、職務を怠慢したということで反逆罪に問われ、いずれにしても地獄行き……戦って負けたならいざ知らず、意図して逃がしたとなるとね。私と同じ罪になるわけだ」
 ロンは覚悟を決めて、耳に付けているピアスを取り外し、それを破壊した。それと同時に、ロンの体は業火に包まれた。地獄行きの前兆である。
「どうして!」
 春江はびっくりして、ベリーに問いかけた。
「ジュネリングは現世に滞在することを許可する証。当然天使も携帯します。しかし、天使は春江さんたちのように首にかけられているリングではなく、身につけるアクセサリーに加工することが許されています。破壊されることを防ぐ意味でも……ロン君のそれはピアスだったということです」
 天使としての意地だろうか。ロンは一切の悲鳴を上げずに……それどころか、身じろぎ一つせずにその身を焼かれていた。
「ベリー様! どうして天使様は地獄に堕ちなければならなかったのですか? どうして!」
「ロン君が選んだことです。自分よりもあなたを選んだ。ただそれだけのことなんです。あなたのせいではありません」
「…………」
 苦悩の春江をよそに、周りが急に慌ただしくなった。浜辺に集まっている天使たちのの胸元にそれぞれ小型のテレビのようなものが現れ、同時にイヤホンみたいな器具を耳に取り付けた。天使たちは、その小型テレビのようなものを真剣な眼差しで見つめている。
 春江や仁木は何が起こっているのか理解できなかった。ベリーもまた天使なのに、何故か他の天使と同じ振る舞いができなかった。
「私に対する伝令が降りたか……私のエンジェルビジョンが何も反応しない……」
 天使が組織として動き出した。これからが本番だ。ベリーは静かに決意を固めた。
 瞬く間に笠木達、ロンと続けて衝撃的な最後を遂げた。その上、天使たちが慌ただしく動き出した。
 異形なる霊達には、天使が春江という菩薩を排斥しようとしてるように映っている。そして、この慌ただしさは、更に春江を追いつめることに関係があるのではないかと疑っているのである。
 ベリーが口にした「エンジェルビジョン」なるものに、何かヒントとなる情報があるだろうという思いから、異形なる者達は側にいる天使のエンジェルビジョンを覗こうとした。しかし天使たちは、見られないようにするために身をよじった。
「どうして見せてくれないのですか! 菩薩様がどうなるのか教えてください!」
「そうです! お願いします天使様!」
「…………」
 天使達は何も答えなかった。いや答えられなかったというのが正しいだろうか。
 エンジェルビジョンに映し出される情報は、基本的に機密事項である。ましてや神仙鏡が盗まれるという非常事態である。失敗は許されない。それ故、尚更情報漏洩は許されることではない。
 天使たちはベリーや笠木たちのように自分の信念に従い、そこに飛び込むことに躊躇した。確かにこれまで、春江の奇跡を目の当たりにしてきた。しかし、自分の立場を賭ける程の覚悟をもつことができなかったのである。
 暫く膠着状態が続いたが、それを破る者がいた。
「君たちには見る権利がある。我々は運命共同体だ」
 そう言いながら歩み出たのは李・清明、笠木の保護観察官だった天使である。
「笠木君がやったことを無駄にできない……」
 李は、自分のエンジェルビジョンを操作すると、ある一点から、眩い光が発せられた。その光は、空をスクリーンにしてプロジェクターのような映像に姿を変えた。
「李君! そんなことをしたら……」
 李がやろうとしていることは、明らかな情報漏洩であり、処罰の対象になる。何故そういうことをやろうとしているのか、仁木には理解できなかった。
「いいんだよ……ここでもたもたしたら、笠木君のしたことが無駄になるじゃないか! だからいいんだよ! ……それより君も聞き給え……」
 エンジェルビジョンから映し出されている映像に、春江とベリーの顔写真がアップで映し出されている。
「神仙鏡を盗難した犯人である城島春江は依然逃走中である。途中、結界官、ブルーヘン・コロを誘惑し、逃走の便宜を図らせた疑いあり。更に、龍神、ベリー・コロンをも誘惑し、保安官、ロン・ショウグンを堕天に追い込ませた。これにより、只今をもって資源エネルギー局局長、ホルスの名において厳戒令を発令する。資源エネルギー局局長、ホルスの名において、第二十三管区所属全天使に命ずる。第二十三管区を区画ごとに封鎖し、逃走経路を塞げ。結界官と保安官はバディを組み、結界で捕捉後処罰を下せ。保護観察官は、担当霊が城島春江の誘惑に惑わされないように保護せよ。ベリー・コロンについては、課長級の結界官により捕捉し、総務課長により天使更迭の令を速やかに発令すべし。城島春江は、誘惑の術を駆使する恐れあり。マジカルオイル「ターンバック」を使用し、自らの精神を保護せよ。主犯格、三田才蔵については……」