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郊外物語

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十六号線に入ったところで、達郎は、殺したな、また、と言いました。私はバッグを膝の上に抱え込んだまま震えています。達郎は、川に自分から飛び込んだガキを知っているのか、と訊いてきます。私は、知らない、と答えたつもりですが、歯の根が合わずに聞き返されました。私は、首を何度も左右に振りました。嘘をつくな、と達郎は言いました。国分寺一家とお父さまとのつながりを達郎が知ったらどういう反応を示すか、私は想像つきませんでしたが、きわめて具合が悪かろうとは思っていました。黙っている私に、達郎は、厳しく追求の言葉を投げてきます。あいつらは飯田の人間じゃないのか? 東京で雇ったのか? バックを教えろ。お前はなぜあいつと個人的に知り合いなのか? 秘密にしていることがあるだろう? お前自身がまわし者なのか? 俺の居場所を密通したんじゃないか? お前、俺を捕まえるか殺すかするための囮なんじゃないか?
私は耳を疑いました。ひどい。なんてひどいことを。私は声をあげて泣きました。まだ結婚して一週間もたたないのに。この人と一生一緒にいよう、最後までこの人の味方でいようと決意しているのに。そのためには、世界中を敵にまわしてもかまわないと覚悟しているのに。この人は、なんてつらいことを言ってくれるのか。私を今は愛していなくてもかまわない。しかし、私を信用していないとは。私が半年間毎日紡いできた夢も希望も人生設計も、この人には何の意味もないたわごとだったんだ。情けない、ああ、情けない。私はなんて馬鹿だったんだろう。
私は無思慮に、ヒロシのこと、さらには、お父さまと国分寺のおじ様との付き合いのことをしゃべってしまいました。さあ、もう、どうとでもなれ!
達郎は、それは知らなかった、大失敗をした、殺されるな、と、うめきました。いまさら仕方がないが、そういうことは、前もって伝えておくもんだ、とも言いました。私は、大失敗の意味を、その時は、喧嘩の相手を飯田の追っ手だと見誤ったことだと思っていました。達郎はさらに、お前はここで降りて、武蔵境に帰れ、と言いました。私は、とんでもないことには、あんたについていくと答えたのです。私が徹底的に馬鹿なところです。私は、この、誰も信用しない、人殺し野郎の魔法にかかってしまった。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦