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郊外物語

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ついたところは環八と豊島通りの交差点です。地下鉄の春日町駅の建設工事がおこなわれていました。豊島通りを北に少し行くと二本の道路が東西に交差して複雑な六差路をつくっています。駅の工事現場から交通は遮断され、豊島通りは掘りかえされて、左右の歩道しか使えません。駅前にタクシーを待たせて、工事現場入り口まで走りました。車道いっぱいに高いジュラルミンの塀が立ち、その内側には、光が丘のほうへ、点々と何基もやぐらが組まれています。六差路のところにトラック進入路があり、黒と黄色の縁取りのゲート中央に、車高2・4メートルと書いてある横断幕が掲げてあります。横にドアがあり、真ん中に赤字で関係者以外立ち入り禁止と感嘆符つきで大書してありました。私はドアに体当たりして入り込みました。道路は掘りかえされて、四階建てのビルが沈むくらいの、涸れた大河のようです。左右の垂直面には鉄板で土止めがしてあり、ところどころに斜めのはしご段が張り付き、トラックの進入ゲートからは、河底に向かって一車線分の坂道が降りていました。その道を私は駆け降りました。後ろで、ちょっと、あんた、と言う年取った男の声がしました。振り返ると、ドアのそばの詰め所から、ヘルメットをかぶった老人が身を乗り出して、手招きしていました。私がいうことを聞かないのがわかると、トランシーバーを出して、どこかに連絡しているようでした。穴倉の床の部分にはコンクリートがひっきりなしに流し込まれ、鉄筋がハリネズミのように突き立っていました。視野には二,三十人もの作業員がうごめいています。じろじろ私を見る者もいます。私は、けつまずきながら、その人たちの姿かたちを片っ端から点検していきました。そしてとうとう私は見つけたのです。薄汚れた、目の粗い綿の長袖シャツを着て、オレンジ色のバンダナを頭に巻いた達郎が、シャベルを持ってセメントと砂利を混ぜていました。私は走りよって彼の左手首を両手で握り締めました。もう放すものですか! 見上げると、春の午後の淡い陽光を浴びて、達郎の頬の汗が光っていました。中央の通路の奥から、ヘルメットをかぶったいかにも監督然としたおやじが、足早に近づいてきました。私は、呆れ顔の達郎を引っ張って坂道を駆け上がりました。呆然と眺めている門番の老人に笑いかけ、さっきのドアを抜けて、待たせてあるタクシーのところまで逃げました。達郎をタクシーに
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦