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郊外物語

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一方で、私は新庄を探し続けていました。いつも思っていました。あの人、今ごろ、どうしているかしら。広い東京を私ひとりでうろついても無駄です。私は、古くからある探偵社兼興信所に新庄を探してくれるように頼みました。新庄が見つかるまで、生活費を切り詰めて、料金を払っていくつもりでした。当人の写真を持っていませんので、A3のコピー用紙に私が彼の似顔絵を描きました。四枚目にそっくりなものが描けました。知っている限りの特徴を述べねばなりません。水平に3センチしかない盲腸の手術痕、左のお尻の刺し傷の陥没を、私は真っ赤になって伝えました。
卒論が大部になってきて、半徹夜の毎日が続きましたが、新庄を探すことを私は怠りませんでした。様々の団体、組合、あちこちのハローワーク、はては、泪橋ぎわの人足市場まで、電話で、ウェブで、足で、探し回りました。そして、受付期限ぎりぎりに卒論を出し、試験を何度か受け、卒業式を終え、春三月の末となったころ、疲労困憊してやせ衰えていた私に、跳び上がるほどにうれしい知らせが舞い込んできました。新人賞受賞の知らせなどとは比較にならないほどでした。、探偵社から電話がかかってきたのです。新庄達郎と思しき人物が地下鉄大江戸線の工事現場で働いている。月末までは、月火水が、朝九時半から夕方五時まで、金土が、夜十一時から翌朝の六時まで、環八通り沿いの練馬区春日町、445号線と443号線の交差点付近で作業している。住所は不定。直属の上司の名前は……。その日は水曜日で、時刻は午後二時を少しまわったところでした。私はバッグとコートを引っつかむと武蔵境のマンションを跳びだして、両手を振り回してタクシーを捕まえ、練馬まで突っ走りました。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦