郊外物語
真砂子は、冷蔵庫の最下段から、レタス、ピーマン、キャベツ、セロリ、きゅうり、コリアンダー等、次々に取り出してはシンクの左側の調理台に積んでいった。野菜サラダだけは直前に作らなければ、しなびてしまう。水洗いをしてから、布巾でよく拭く。そして、野菜の種類に関わらず、同じ大きさのさいの目に切っていく。直径一フィートのボールに盛る。ドレッシングを調合する。米酢、葡萄酢、ヤシ油、胡麻油、麦醤油、魚醤、麦味噌、日本酒、最後に八角と胡椒と柚子とニンニクをすって混ぜる。大人も子供も病みつきになるうまさだ。とり皿やスプーン、フォーク、箸をそろえたときに、背後で、「失礼しまーす」と、新庄達郎の声がした。
「まあ、お察しのいいこと。用意が出来たところでしたの。鹿野を呼びに行こうかと思ってたとこでしたのよ」
そう言いながら真砂子はふり向いた。
新庄が、いつものように、ニヤニヤ笑いながら突っ立っていた。しかし、大きなどんぐり眼は獰猛そうに光っている。
「残念でした。ビールを取りに来ただけですよ。ま、しかし、そうと聞いちゃあ、お手伝いしますよ。両腕使って、口も使って」
新庄は、そう言ってから、口をあーんと開けて真砂子に突き出してみせた。小児的というよりは、人をなめた無礼なしぐさだが、真砂子は微笑ましいと受け取って済ませておく。こういうところに微かに感じる違和感に拘泥するのは鬱陶しかったからだ。
「じゃ、お言葉に甘えて、そのでっかい口で、サラダボールをくわえてもらってっと」
真砂子は笑いかけながら、きょとんとしている新庄の口に、切ったばかりのトマトのかけらを放り込む。
「冗談ですよ。さあさあ、ビールを持って、行った行った! 酔っ払いにこぼされちゃたまりませんから、これは私が持っていくわ」
新庄は、ニヤニヤ笑いに戻った。ビールのクーラーの蓋を開けながら、ゆっくりと言った。
「さっき見た録画のことですがね」
真砂子はオーブンのとびらに歩み寄った。身をかがめている新庄と向きは同じに並んだことになる。
「何回ご覧になりましたか?」
「さっきで二回目、ええっと、三回目かな」
「何か気づきませんでしたか? 内容に関してではなく、映像そのものについてです」
二人は面と向かってまっすぐに立った。
「なんのことでしょうか?」