郊外物語
「真砂子さんは、ハリウッド流のSF?はご覧になりますか?」
「結婚する前は、何本か見ました。しかしすぐ飽きましたわ。いくら精巧に作っても、所詮子供だましのコケおどかしの……」
あっ、と叫びそうになって、真砂子は口を押さえた。相手は、CGデザイナーだった。ニヤニヤ笑いの裏に不快感が隠れていないかと大急ぎで点検した。見当たらなかったのでほっとした。
「最後の日御碕の場面で、僕の見る限り、三ヶ所、CGが使われています。昭子が落ちていくカットは、簡単な特撮ですが。言っときますけど、女房からは何も聞いてません。おそらく彼女も、細かいところは聞かされてないんじゃないですかねぇ」
そんなこととはつゆ知らなかった。さすがに落下の光景は、映像処理されたもののはずだが、その他に、そんな箇所があったろうか?
「私が思案してるあいだ、新庄さん、付き合ってると、ビールがぬるくなるわよ」
新庄はすぐさま引き下がった。新庄を行かせておいて、真砂子は、実際思案にふけりはじめた。
夏にロケ隊がどっさりビデオを撮ってきたとは、玲子から聞いていた。その上さらにCGが入り込む余地があったのだろうか。そんな必要があったのだろうか。しかし、専門家である新庄が断言しているからには、そうなのだろう。真砂子は、たちまち、自分の不注意、観察力不足、騙されやすさを意識してしまう。生まれつきのぼうっとしているところを、まだまだ克服できていないのだろうかと、反省してしまう。
気を取り直して、料理を運んで行こうとしている時、またしても新庄が現れた。
「枝豆の殻を捨てるボールかなんかありますか」
オーブンを開けて、中からの熱気を浴びたばかりの真砂子は、顔をその反動で背けながら、顎の先で壁に吊ってある網目のボールをさした。黙っているのも変に思って口を開いた。
「ちっともわかんないわ」
新庄は、ニヤニヤしながら去っていった。
真砂子は、忙しくキッチンとリビングを往復して、半畳の大きさのテーブルに皿をならべ終えた。その間、新庄から出された宿題が、頭から消えなかった。負けず嫌いだから意地になる。坐っている三人との受け答えが、うわの空にならないように、随分気をつけねばならなかった。