小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

郊外物語

INDEX|88ページ/197ページ|

次のページ前のページ
 

私は、見慣れない男に対する興味だけで行動したのではありません。あの夏、しゃべったのはわずか三日でしたが、それ以前、ほぼ一ヶ月間毎日その行動を観察していました。私は観察に熱中しました。今までひとりの男を、いや人間を、こんなに長期間連続して観察したことはありませんでした。あのね、お父さまは、私がもっとも長く時間を共有した人間ですが、観察の対象ではありませんでした。どんなに関心が高まったにせよ、新庄は他者ですからね、観察可能なんですよ。お父さまは、こっち側にいるんだから、観察なんて出来ないわよ。さていよいよ新庄と口をきく段となりました。お父さま、悪いけれど、もう一度だけ思い出させて下さい。もう一度だけ語らせて。第一日目はほとんど向こうが一方的にしゃべっただけでした。年下のくせに私に意見をしましたよね。たいした貫禄でしたが。二日目は、具体的に私を諦めさせる材料を提供するかのように、かつての悪業を語って聞かせました。私が呆れないで面白がっていることにやや呆れたようでした。私のほうは、彼の語り口から、よいことばかりを引き出してしまいました。まず彼の言語能力の高さに感心しました。私はジェットコースターに乗っているかのように、彼の話っぷりに翻弄されました。彼には人間知がありました。たくさんの多様な人間と交渉してきた結果、人の本性を見抜く力がついていました。悪擦れとは違います。人をパターンに分類することではありません。彼には人間の特異性にすぐ反応する感性があるのです。相手の気持ちが手のひらの上に載っているようにわかってしまうらしい。相手は防戦のしようがないでしょうね。もちろん私も身体より前に心が彼の前で裸になっていました。彼は世間知も豊富でした。世間をなりたたせている要所、結節点をよく心得ていました。金の動きを把握していました。一見一匹狼風ですが、組織とはなんであるかわかっているようでした。中学もろくにいっていませんから、いわゆる学力はありません。鎌倉時代と室町時代と、どっちが前か知りませんでしたし、三平方の定理も知りませんでした。マイナスかけるマイナスがプラスになる理由がわからないと言っていました。英語はまったくできません。しかし、彼には、野生の知恵とでもいったものが備わっていました。実践で鍛えられ洗練された知恵です。それがきらきら光りながら、縦横にはつらつと発揮されるのを目の
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦