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郊外物語

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私は、猛然と東京に行く気がわきおこりました。ただ一時的に東京に行くだけでなく、新庄を東京で見つけ、東京でいっしょに暮そうと思ったのです。新庄を知る前の私は、大学を終えたら飯田に帰ってくるつもりでした。幼馴染で、お父さまの親友の息子さんでもある三津田速雄君と結婚するつもりでした。それはお父さまの計画でもありましたね。速雄君はいい人でした。純情可憐な優男でした。家柄もいいし、頭もいいし、適当にハンサムだし、将来は保障されてましたし、気心は知れているし、第一、私にぞっこんでした。私はきっと理想的な家庭を持てたでしょう。誰からも羨まれるような人生を過ごすことができただろうと思います。しかし、私は、その未来図を放擲したのです。お盆が過ぎるやいなや私はそそくさと東京のマンションに帰りました。お父さまは私のそわそわいらいらした落ち着きのなさに首をひねってらしたわ。
処女を捧げた相手の男を忘れられなくなり、すっかり冷静さを失った、なんていう馬鹿では私はありませでした。いやいや、今となっては、その程度の馬鹿ではなくて、どうしようもないほどの馬鹿だったというべきでしょうね。その時は、こういう初体験もありだな、と思っていましたし、男はいくらでもいる、その気になればたいていの男は私を無碍にはしないだろうとも思っていました。状況は相対化できているのだ、あくまで冷静な判断の結果、新庄を捕まえようと決意したのだ、と自分では気負っていました。
新庄は、私の生活圏外の人間でした。東京でも飯田でも、決して遭遇するはずのない人種でした。
東京では、口をきく男性といえば、教師達以外には、テニスサークルの関係で付き合う他大学の男子学生にほぼ限られました。津田とキャンパスが近いので、八割方は一橋の学生で、あとは東大生でした。知り合いの知り合いを辿って紹介されたとしても、学園祭やパーティーでたまたま出会ったとしても、基本的には私の付き合いは狭い枠から外に出ることはありませんでした。飯田では、土地の者はみな私のことを知っています。若い男は敬遠して私と話をしません。たまに東京から遊びに来た、質の悪い大学生が声をかけてきましたが、私は相手にしませんでした。庭の工事というめったにないことがあったので、私は新庄のような人物にめぐり合えたのでした。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦