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郊外物語

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りんご園を横断して歩いた果てに、物置小屋のような、牛小屋のような、大きな木造の建物がありました。何十年も経た古い家屋で、各部分がもたれあってやっとこ立っていました。長く保つフジなどの品種のりんごを熟成させるための倉庫として使われているそうです。昔は従業員達の宿舎でもあったそうです。建物の西四分の一は牛小屋で、東四分の一が倉庫です。真ん中に通路が通っていて、引き戸を隔てて広い居間があります。さらに南側にドアつきの三畳間が八つ並んでいます。トイレと風呂場は、十メートルほど離れたところにあります。収穫時期になると、たくさんの季節労働者が、居間にごろ寝をしていたそうです。新庄とその母親は、西の端の三畳間に住んでいました。うず高い藁とりんごの種を入れたドンゴロスの袋が、彼らのかつての居室に詰まっていました。壁板の隙間をふさぐために、赤土が塗りこめてありましたが、それらの多くは、畳を取り払った後の板の間にこぼれ落ち、輝く夏草が垣間見えます。案内の男の屋内を見るまなざしから、彼もかつてこの家に住んでいたことが推察できました。彼は、思い出に耽っているように見えました。子供ちゅうのは、かわいがりすぎてもいけねえもんだ。達郎みてえなとんでもねえろくでなしができちまう、とつぶやきました。彼は、達郎が小学生のときに母屋に火付けをした、中学に入るころには母親と喧嘩の末に、髪を引っつかんで引きずり回した、りんごをトラックに積んで無免許運転で長野まで運んで売っぱらった、など、悪行の数々を聞かせてくれました。そもそも先代さんがなくなったわけだって言いたくないが、と彼が言いかけたので、さすがに私もそれ以上聞きたくなかったので、どうもありがとうございました、よく分かりました、と言って彼の口を封じたのでした。将来新庄とめぐり合った時に、じかに聞けばよいことですから。
その後私は、夜の中央公園に潜入したり、植木屋の親方達に食い下がったりして、どうやら新庄が東京に行ったらしいことを突き止めました。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦