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郊外物語

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その次の日の晩は、浴衣を着ないで待っていました。処女のくせに私は大胆不敵でした。達郎は不思議そうな顔をしながらも私を廊下に押し倒したんです。私は初めてなのに五回もイッてしまった。お父さま、そんなに眉をしかめないで。あなただってしたことでしょうが。相手は亡くなったお母さまではたぶんなかったでしょうね。
さて、ところが、翌日、達郎は仕事に来ませんでした。長野の実家から呼び出しがあってその日早くに荷物をまとめて帰っていったとのことでした。私は慌てふためきながら、彼の実家の番号に電話をしてみましたが、新庄違いの別の家でした。私は長野県のすべての新庄といううちの電話番号を確かめてみました。どれも間違いか、あるいは間違いの振りをされたか、でした。私は長野市にでかけていきました。駅前のびっくりドンキーにはいって、ウエイターに尋ねました。あるコンビニの場所を聞き出しました。さらにそのウエイターは、「中央公園には、もうみんな集まってるよ」と言いました。私は長野のjRの駅を背にして、右側に斜めに延びている通りを辿って、パチンコ屋の隣りのコンビニにやってきました。歩道に沿ってバイクが三台止まっています。夜八時ごろのことでした。
私は男三人、女二人が座り込んでいる傍らに腰をおろしました。男は三人ともヘルメットを頭の後ろに垂らして堂々と缶ビールを飲んでいました。いずれも壁塗り職人か型枠大工ふうです。女たちは、タンクトップに膝までのパンツを穿いて、タバコを吸っています。女のひとりが私をじろじろ見ながら話しかける機会をうかがっています。こちらは、顔グロにして、髪を染めて、踵の高い細身のサンダルを突っかけて、せいぜい変装してきたつもりでしたが、心臓はどきどきしています。化粧レンガが埋まっている歩道をあんなに低くから見たことはありませんでした。レンガの隙間にチュウインガムやタバコの吸殻がはさまっており、ところどころに雑草やコケが生えていました。通る人の膝とつま先がせわしなく交錯します。
「新庄さんの居場所、知らんかな。新庄達郎さんよ。ちょい、頼まれ事があってさ。電話、通じないんよ。ウチは伝令なんだ」と私は両膝を抱えながらわざとらしくならない程度に、蓮っ葉に話しかけました。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦