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郊外物語

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デボラは訳し終えて、じっと真砂子を見つめたままだ。感想を要求しているととって、あわてて「我が子ながらしっかりしてますこと」などと口走った。デボラは何度も小刻みにうなずきながら悲しそうに真砂子を見つめている。真砂子はもう身の置き所がなくなって、ドアから走り出たいという衝動がうずいた。その時、教室から、マミー、という奈緒の大声が聞こえた。真砂子とデボラが同時に立ち上がった。二人は顔を見合わせた。デボラは、真砂子の直視に一瞬たじろいだようだったが、たちまち表情を崩し、真砂子に笑いかけながら「今、教室は、クリスマスの飾り付けの準備でごった返してるの。乱雑な様子を真砂子に見られるのは恥ずかしいから、私が代わりに見てきます」と言って小走りで教室に向かった。
正体のわからない奇妙な感じにとらわれている真砂子に、教室からもどってきたデボラは優しく明るい口調で伝えた。
「奈緒は、クリスマスの飾り付けを手伝いたいから、お迎えの時間を三十分遅くしてほしいそうよ。一時間でもかまわない、ですって。孝治もそんな風よ」
「あなたの時間を侵犯するのはよくないと思うけど」
「ああら、それは逆よ。二人が手伝ってくれたら私は飾りつけの時間を短縮出来て、そのあと、予定より長く、私の時間を確保できるわ」
「では、お言葉に甘えて」
「二人にはそう伝えておくわ。では、夜にまた」
「ひとまず、さようなら」
真砂子は、解放されたようなごまかされたような気持ちのまま、駐車場に向かった。淡かった雪は、ぼた雪に変わっていた。

十二月十三日 火曜日
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦