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郊外物語

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孝治と奈緒の持って帰った洗濯物で、洗濯籠はあふれんばかりになっていた。嵩の半分以上がタオルだった。籠から汗の匂いがかすかに立ち上っていた。容量六十リットルの水槽にどんどん入れていく。義人の運動着が汗を吸って冷たく重い。洗濯籠の底の隅に奈緒のパンツが突っ込んであった。とり上げて何気なく見ると股のところにかすかなにじみがある。小学一年生なのでまさかおりものがあるはずはない。そのまま洗濯機に放り込む。自分と義人のバスローブも放り込む。縄跳びの柄が真砂子の肩に触れ、カランと乾いた音を立てた。
真砂子は洗濯機のスウィッチを入れるとリビングにやった来た。またあれを見ようとしていた。本当は、テレビドラマなんぞ見るひまはないはずだった。しかし録画を見ることが逃避手段となるだろうという期待があった。もうこれで十回目か?
画面に、日御碕灯台が映しだされた。 
小柄な小阪昭子の後を追うように大柄な多田伊都子がロープをまたぐ。二人は岬の突端に向かって歩いていく。真砂子はときどき画面を止めて点検する。不自然なところは……、ない。岩肌の上の花とテーブルのような岩の塊り以外には、ない。大きな夕日が今まさに沈もうとしている。大きな……あまりにも大きな……。真砂子は、わかった、とつぶやいた。この太陽そのものが作り物だったのだ。両腕を広げる昭子がすっぽり入ってしまうほどに大きい太陽。こんなことはありえない。なんで今まで気がつかなかったのだろう。そうすると、情景全体が急に嘘っぽく見えてきた。偽の岩の塊りと偽の背景の中に、俳優が尻餅をつく映像を貼り付けたのだ。真砂子は息をこらして自分の仮説を確かめようと画面を見つめていた。画面で、伊都子が身をかがめた。伊都子はダッシュした。昭子に体当たりした。昭子の尻を両手でついた。昭子の両足が浮いた。昭子は体をねじって反転した。体をくの字に曲げた。尻餅をつく形になった。しかし、尻の下には何もなかった。
真砂子は、仮の土台の上で、仮の背景の前で、二人がもみ合っただけだと確信した。昭子を演じた女優はおおかたマットの上にでも倒れこんだのだろう。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦