郊外物語
二人をいったん子供部屋に連れて行き、荷物をおろさせてから、風呂に入れた。二人はバスタブの中で、真砂子の聴いたことのない英語の歌を二重唱で歌った。ひとりずつ身体を洗ってやった。その間二人とも、世田谷でのことをひっきりなしにしゃべりまくった。孝治を洗っているとき、孝治のペニスが勃っているのを見た。ときどきあることだった。真砂子の視線に気がついて、孝治は「今日、僕、元気だよ」と言った。二人ともパンツ一丁で風呂場を飛び出すと、世田谷からもって来たDVDをリュックからとり出して、リビングでゲームを始めた。
夕飯の支度にとりかかる前に義人に連絡した。すぐに帰るという義人の声に混じって、ジングルベルと車の音が聞こえた。外にいるのだ。やっぱりワインぐらいは飲もうということになって、いま下に買いに来たところだ、と言う義人の声が続いた。ひとりだろうか? ワインは玄関で新庄に手渡してそのまま帰ってくる、と言って携帯を切った。真砂子は料理に集中することにした。みんなが好きな沖縄料理を大急ぎで作り始めた。
玄関が開いて、ただいま、と声がした。子供達は走って義人を出迎えた。義人は、左右にひとりずつぶら下げたまま、真砂子の背後を通ってリビングに向かう。途中でちょっとそばに寄ってきて、体調はどうだい、有り合わせでいいんだよ、と声を掛けてくれた。やっぱり義人は、やさしくて思いやりがあって私を気遣ってくれている、と思い、一瞬ホロリとなった。だが、かすかにワインの匂いがした。
食事は、キッチンにおいてある小テーブルでとった。子供達は世田谷の話を主に義人に聞かせる。実の母親や弟のことを父親は知りたがっていると察してのことなのだろう、利口な子達だ、と真砂子は思う。義人は子供達の盛り上がりに同調して喚声を上げ、大笑いするが、ときどき冷静な批評を交えて、子供達を感心させ、真砂子を安心させた。子供同士でおしゃべりをしている間は、義人は真砂子に話しかける。体調はどうか。今日はみんなくたびれているから早く寝よう。台所の後片付けは僕がするから、君は子供達を寝かしつけてくれ。真砂子はうなずきながら耳を澄まして聞いていた。義人の言葉には、いたわりと慰めが満ちていて、回避やごまかしや隠蔽の匂いがしなかった。真砂子は写真のこと、携帯のことが夢だったように思われてきた。