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郊外物語

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真砂子は、坐ったまま妄想と混乱の十分間を過ごした。ふと正気に返って、勢いよく立ち上がった。玲子に対する激烈な怒りがよみがえり、同時に、やはり激烈な吐き気に襲われた。真砂子は、キッチンのシンクに走り寄った。両方の腰骨が音を立てて流し台にぶつかった。同時に苦くてすっぱい胃液が垂れ落ちた。涙もいっしょに垂れた。

義人は、四時に帰ってきた。真砂子は泣き寝入りしてしまっていた。そっとベッドルームに入ってきた義人を、真砂子は見知らぬ闖入者のように薄目で眺めた。音を殺してクロークを開いて、着替えを盗人のように引き出していく姿は、真砂子の睡眠の邪魔をするまいという意図からではあるものの、いかにもどこか後ろめたい気持ちを隠しながらのように見えてしまった。
「義人さん、帰ってたの?」
真砂子は、たぬき寝入りがばれる前に自分から声をかけた。
「ああ、びっくりした。うん、今帰ってきたんだ。新庄さんのところに行って来るよ。今日は、自粛してアルコール抜きだって。君もいくかい?」
「まだ、調子が悪いの。よろしく言っといてね」
真砂子は横を向いてしまった。表情を読まれないようにと注意しているからだった。
「それじゃあ。お大事に」
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦