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郊外物語

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小陰唇の肥厚や呈出がない。小柄で痩せている女性は一般にこうだ、だって? 要するに子供のに近い、ってことよね。お医者様は、そういうのを確認してからじゃないと安心してできないのかしらって思ったわよ。そのあと! 子供のに近い器官に、あんな狼藉をはたらいて! こわれるじゃないの! 腰が抜けて、今も治んないわ。今日はテニスはできません。来週またね。

玲子に対する激烈な怒りが真砂子を襲った。
真砂子は携帯のふたを閉じて床に置いた。両手で髪を触ってみた。髪が逆立つとよく言うが、本当かどうか触って確かめてしまった。手のひらに触ったゆるいパーマのふくらみは、小動物達が息をしているようにうごめいていた。手が震えているのか頭が震えているのかわからない。とにかくその小動物たちは疾走してきて頭に張り付いたかのように小刻みに喘ぎ続けて止まらなかった。
両手を太腿の上に置いて深呼吸をした。記憶をまさぐってみた。六月十二日は、確かに玲子は夏風邪をひいたといってコートに来なかった。義人、達郎、真砂子の三人で、夕方飲んだ。達郎は、八時前に帰った。問題の十一日。ああっ。玲子は、風邪気味だからといって、午前中に1セットをこなしただけで帰ってしまった。義人は、薬品会社の人たちとの付き合いで夜遅く帰ってきた。真砂子は、達郎と混合ダブルスのペアを組んだ。
真砂子の頭の中には、バーで親しげにささやきあっている義人と玲子の姿が浮かび上がった。どこで飲んでたのかしら。食事はどこでしてたのかしら。もとの奥さんといっしょによく行ったところじゃないの? 死んだ女房と来たのを思い出すなあ、ってわざと言ったんじゃないの? どんな方だったの、って問いかけさせるために。嫉妬心を煽りながら、もう当人は死んでいるんだから、嫉妬心はそれほど亢進しないと踏んでいる。玲子にあれやこれやと想像させておいて、いや、そんなんじゃなかったんだ、などと卑屈に反論する。いやらしい。私にしたことと同じことをしたのかな? どこで寝たのかしら。まさか、あそこじゃあないわよね。もしそうだったら、あの人の悪趣味もきわまれりだわ。わざと同じ部屋に連れ込んだりして。ひょっとしてこの部屋? うううっ。……けど、ああ、義人のこと、大好きだしとっても頼りにしてるから、やっぱりどうしても憎めない! あん畜生め、どうしても憎めないんだ!
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦