小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

郊外物語

INDEX|59ページ/197ページ|

次のページ前のページ
 

いちど、よおーく、訊いてみたかったのよ、どうしていまの奥さんと結婚したのか。ひととおりの説明はうかがっております。けど、聞けば聞くほど説得力が弱まっていくわ。あなたの、理屈付け能力は、こういうところで破綻するのよ。医学、医療の世界では、同業者を、データ、実験、活字の上でだまくらかしてきても、私を納得させてないじゃない! たとえば、私と結婚していてもおかしくないでしょ、あなた。おかしくないどころじゃない、必然だ、運命だ、神の祝福を受けているんだ、とはしゃいだってかまわないカップルだと思うよ。どこをとったって釣りあってるでしょ。私、自信あるもん。あなたが、よりによって、ああいう下賎の者を女房にした理由を聞きたいわ。あなたのへそ曲がり加減はわかってます。下降趣味もわかってます。わざと重大な場面でいたずらをしてみせる偽悪趣味や子供っぽいヒロイズムもわかってます。ああいう人種を洗脳し、奴隷にしてやろうという征服欲もわかっています。でもね、結婚は長期戦よ。そんなあなたの戯れは、二、三年で飽きがくる。戯れの生活を最後まで続けて見せてやろうというあなたの野心は潰えるのよ。あなたは彼女に腹を立てる。度し難いメスだと思う。こんなはずではなかったと後悔する。自分の思い通りに行かなかったのでかんしゃくを起こす。そして、じわじわと、しかし確実に、自分に対する信頼を失っていくの。あの人は、あなたにあわせようと必死の思いで奮闘してきたのは私も痛いほどわかるんだけど、おのずと限界はあるでしょうに。あなたは,限界はない、限界は自分の感化力で突破する、と思っていたでしょうよ。自信過剰のあなた。そんなところに無駄なエネルギーをもう使いなさんな。私が慰めてあげるわ。
どうする? 私と逃げる?

真砂子は地震に襲われたように、あわてふためき、驚愕し、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせた。じゅうたんの上に正座し、全身の震えに耐えながら、残りの着信履歴をすべて見た。もっとも古い着信が六月十日の金曜日だった。ちょうど半年前だ。テスト、とだけ書いたメールだった。その次は、六月十二日だ。

私、お医者様にあそこを診られたりいじくられたりするのは、四回目だわ。御心配なく。三回までは、産婦人科に行ったときの話。この歳になるまで、産婦人科には、三回しか行ったことがないのよ。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦