郊外物語
「お粗末さまでございました。ああ、恥ずかしいなあ。プライベートなお付き合いをしている方たちに見ていただくと、もう恥ずかしくて、私も、体、ねじれちゃいそうよ」
脚本家の新庄玲子が立ち上がって、照れ隠しに背伸びをしながら言った。
いま四人で見たのは、全七話、一回九十分の連続テレビドラマの第五話だった。昨日のゴールデンタイムに放映された。真砂子は、今までの分と同様に、コマーシャルをとばして、CDに録画した。ドラマの評判は回を増すごとに高まり、第四話の視聴率は15・6パーセントを記録した。今回は20パーセント近くいくかもしれなかった。今日テニスコートで、真砂子は新庄夫婦に会って、如何に自分が「氾濫」に嵌っているかを説いた。真紗子の夫の義人は、一度もこのテレビドラマを見たことがない。テレビそのものを見ない性質なのだ。玲子の夫の達郎も、昨晩の分は見ていないことが分かった。そこで、渋る玲子を真砂子は説得し、テニスの後にみんなで見ようという話にもっていった。真砂子は外圧を使ってでも義人に見させて、その反応を知りたかった。
土曜日の夕方である。昼間も風が強く、テニスボールがことごとく横にそれてしまった。夕方になってさらに風は強くなり、マンションの十四階の外は、木枯らしが吹き荒れていた。上州や甲州から、奥多摩の山々を越え、多摩川を渡って、空っ風が吹いてくる季節になった。
川と山がすぐそばに控えていながら、それほど都心と時間的に離れていないのが気にいって、義人と真砂子は、子供二人とともに、四年前にこの地に移り住んだ。二十四畳のリビング兼ダイニング、八畳二間と四畳半、広いテラスがついて、月十九万円だ。一年前、十一階のここと二階違いのちょうど真下の部屋に、新庄夫婦が移転してきた。十二畳のLDと六畳二間で、月十四万円。子供がいないのでそれで十分だ。いずれも都心に比べると安い。