小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

郊外物語

INDEX|5ページ/197ページ|

次のページ前のページ
 

「おおこわっ。何十メートルあるのかしら。昔の出雲大社はこれより高かったっていうこと? 岩がたくさん突き出てるわよ。東映の映画の始まりの場面みたい。伊都子さんも来てみなさいよ」
「ちょっとお。危ないって。やめてよね」
そう言いながら、伊都子もロープをまたいで、おずおずと昭子の背後に近づいていく。
昭子は傍らの岩の上に立つ。両手を広げて、巨大な夕日に向かう。船首に立っているかのようだ。映画のタイタニックのあの場面だ。水平線は、太陽を真っ二つに切ったところだ。
「うわぁ。太陽が落ちる。落ちるぅ」
伊都子は身をかがめた。よそ見をしている鹿に、背後から肉食獣が迫るように、足音をたてない。脇を締めて、力士のように、手のひらを夕日に向けた。立ち止まり、左足を前に出し、右足を後ろに引き身構えた。
真砂子は、こうなると知ってはいたものの、改めて身を固くした。
一瞬、風が凪いだ。無音。伊都子はダッシュした。昭子に体当たりした。昭子の尻を両手で突き放した。昭子の両足が浮いた。昭子は、腕を車輪のように回しながら、体をねじって反転した。昭子の右手の爪が、伊都子の左手の甲を引っかいた。昭子は体をくの字に曲げた。尻餅をつく形になった。しかし、尻の下には何もなかった。飛び出るほどに目をむきながら、昭子の体がゆっくりと下降し始めた。大きく口を開いた。のどチンコが見えた。いままでの、鈴のなるような声とは似ても似つかぬ、悪鬼のような叫び声が噴き出し、ふと姿が消えた。崖の上から見下ろすと、両腕を回転させ、バタ足で空を蹴る昭子の仰向けの姿が、急速に小さくなっていく。岩の上にたたきつけられた。べチャ、という音が聞こえた。動かない。
崖の上の伊都子は、右腕を脇のところに縮め、左手の甲を一度なめてから、やはり脇にひきつけた。血のついた歯をむき出しにした。獣そのものだった。

みんながため息をついた。画面の右下に、つづく、とテロップが出た。さらにいく通りかのテロップが、テーマ曲とともに流れた。最後に、この作品は、フィクションであり、実在の個人、団体等とは一切関係がありません、と表示が出た。真紗子はテーブルの上のリモコンを取り上げて、モニターをオフにした。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦