郊外物語
義人さん、あなたと話し始めると止めどもなくなる。あなたが言ったことか私が言ったことかわからなくなってくるわ。私としては、ワタシテキには、って、言う必要がないから、楽で仕方がないの。ときどきふざけてわたし、議論しかけてやろうと、攻撃的になるけど、いつも和気藹々に落ち着いてしまうのよね。どうして、こう、ウマがあってるのかしら。客観的には、生まれ育ちが似ているってことでしょうけど、それだけでは説明しつくせないわね。私達のあいだの障壁のなさ、ツーカーぶりは、もう神秘的だわよ。何代かまえ、兄妹だったんじゃない? ひとかたまりの理想的な生存が割れてしまって、お互い同士を探し続けて、この東京郊外のマンションでやっと再会したんじゃない? なあんてロマンティックなんでしょう。あなたに、このへんの事情を大々的に理屈付けてもらいたいわ。それを聴いた私は、仰天し、知らなかったとため息吐息、神の摂理があなたと私という二人の刹那の出会いにも貫徹していることへの感謝で震え、私の抱く神秘主義と少女的幻想が、ますます亢進するでしょう! あっはっは。くどいようだけど、あなたのこと、すごく好きよ。毎日、一瞬一瞬、好きって思ってんのよ。愛の強迫神経症になってるの。もう、殺したいくらいだわ。亭主にはさせてないって。何度も言ってるでしょ。よく外も中も調べてよ。お医者さんでしょ? 明日、テニスコートでお会いしましょう。とっても寒いでしょうけど、絹のスコートはいていくから見てね!
真砂子は震える指でひとつ前の着信を押す。