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郊外物語

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子供たちの運動靴も洗濯機で洗ってしまう。実は義人の革靴も洗濯機で洗っている。子供たちの靴は、目立つ汚れを風呂場で掻き落としてから、そのまま洗濯機にほうり込む。革靴は、二重にしたネットに入れて、洗剤は使わずに低速度で洗う。ベランダに陰干して頻繁に見に行き、吹き出る白い粉をガーゼで拭けばいい。
靴以外にも泥のついたものは、洗濯機で洗う。小学校で授業にとりいれられている縄跳びもまた洗濯機で洗う。手作りの縄跳びは、ロープの部分がビニール製ではなく綿の紐であり、にぎりが生の青竹でできている。小学校では、七夕祭りに使った長い孟宗竹を払い下げてもらって、生徒にのこぎりで切らせて柄にしている。真砂子は、握り手の尻からローブの結び目をつきださせ、小型のドライバーでほじくって結び目をほどいて、ロープだけを洗濯機で洗っていた。竹の握り手は、台所用洗剤を布巾に沁み込ませて拭う。それぞれ陰干しをしてからまた握り手にロープを通して、端を縛る。その時、ドライバーを使って、思いっきり引っ張っておく。ほどけたローブで友達をたたいてしまったと、孝治から文句が出たことがあったからだ。縄跳びは二本ともゆるく巻いて、義人と真砂子のバスローブといっしょに、洗濯機の右の壁のフックに垂らしてある。
真砂子は、孝治と奈緒に励まされて、マンションの内庭で何度か縄跳びの練習をした。竹の握り手が共鳴胴となって回転するロープのきしる音を増幅させた。聴いているとくすぐったくなった。風が強い日は、縄が描く楕円形の半分が、ゆがんで、よじれて、すぐさま足に引っかかったものだった。しかし、風がまったく吹いていなくても真砂子は縄跳びができなかった。子供のころ、何度か試みたけれど、すぐやめてしまった。体育の授業でやった記憶はなかった。かけっこも速かったし、ピンポンも上手だったし、もちろん水泳にかけては河童か人魚みたいだったのに、なぜ、縄跳びがこんなに下手なんだろう? 真砂子はふとある時答がわかった。自分の育った場所が土と石と岩でできていたからだった。思い出した。悲しい納得だった。縄跳びをしようとすると、石や岩に引っかかってしまった。埃が舞い上がり、膝から下が代赭色になってしまった。今はもう道も広場も、もしかして校庭も、アスファルトになっているだろうから、あの村にも縄跳びの上手な子はいっぱいいるだろう。 
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦