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郊外物語

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十二月十一日 日曜日

昨日とはうって変わった上天気となった。
緑色の分厚い遮光幕はハンドルを巻き切って左右に引いてあるので、縦に走る窓枠を隠していた。白いカーテンも右半分はいっぱいに引いて遮光幕と窓枠の間に挟みこむように引っ掛けてある。二重ガラス越しに、奥多摩の山々の裾が見える。右側に並ぶビルの向こうに、なにやらかが立ち上がる雰囲気が広がっていて、それが実際、窓の中央で、立ち枯れた林の盛り上がりとなり、左手に向かってゆるゆるとさらに上るにつれて、まだらに雪が積もった山腹となる。十分高くなりきらないうちに、左の窓枠の遮光幕の後ろに隠れる。昨日の嵐で、空中のゴミは跡形もなくなって、痛そうな冬の陽射しが、家並みや山並みを細密に浮き立たせていた。この清潔な景色は真砂子に遠近感をなかなかうまくとらせずに戸惑わせた。
真砂子はキッチンテーブルに突っ伏したまま眠ってしまった。明け方義人にわきの下を支えられ、左右にゆすられて眼がさめた。負ぶわれてベッドルームまで運ばれ、ベッドに投げ出された。そそくさとセックスされた。頭痛と吐き気の中で、今日は寝てろ、と言う義人の声を遠くに聞いた。
布団の先から左右のつま先が覗いていた。左のつま先が棚の最上段の真ん中にある時計を指していた。二十四時間時計だ。すでに十時を過ぎていた。アメリカの東海岸は午後八時過ぎになる。右のつま先は浮世絵全集をさす。あんな反吐が歌川国芳集にはさまっていた。夢の中での出来事のようだった。もう一度確かめておこうか? やはりあったとしても、午前の光の中で見直せば、別の、新しい感じ方ができやしないか?
真砂子は起き上がった。毛布が胸から落ちたので、両手で顎まで引き上げた。一瞬、糸で縛ったバラ肉のようになった腹が見えた。しわがいまにもはじけて切れそうだ。その脂肪で下腹部が圧迫されて早朝の義人のものが流れ出た。急に情けなくなって涙が頬を伝い落ちた。口の中が荒れていて上あごが痛い。口内炎ができているらしい。歯が浮いた感じで、歯茎全体が熱を持っていた。歯の噛みあわせが微妙にずれている気もして、何度か軽くかんでみた。もう若くはない。身体が悲鳴を上げていた。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦