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郊外物語

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ひとり。ぼろ家でも家賃取られてたよな。あんまーはついに村営海産市場の臨時雇いのまま、退職金無しでやめたんだった。私と離れたくないと、いっしょに東京に来たんだよね。しかしあんなことになった。わたしが東京に来なければよかったんだ。しかし私が沖縄にあのままいたって、いいことは無かったはずだ。あの噂が広まっちまったからね。居づらいわさ。虎治のことだ。私が商業の一年の時付き合ってしまったチンピラだ。私が名護まで通うようになった春に、仲間といっしょに後をつけてきて、網小屋で私をまわしたやつだ。父親がいないハーフだった。歳は私と同じ。高校は一週間でやめていた。私のうちに仲間と入り浸るようになって、酒、タバコ、ばくち、強盗、強姦、やりたい放題だった。私は情婦、あんまーは下女だわさ。私は、ああいうのにちょっと弱いところがあって、憎たらしくて仕方がないのに、甘ごとを言われたり、弱みを見せびらかされたりすると、ついやらせちゃってたなぁ、ばかめ。あいつ、私にバスガイドをさせて、お給料を巻き上げてた。忘れもしないわ。高一の夏。七月二十七日。悪夢だわぁ。虎治と仲間四人、それに私は、与那嶺川の岸辺で宴会を開いていたっけ。出たばかりの私のお給料で買ってきた飲み物と食料は、五人でも消化しきれないほどだった。あいつらのバカづらがサルみたいに赤かったわ。夜九時ごろ、もうぐでんぐでんに酔っ払った虎治が、トイレに立った。といっても川におしっこしに行くのだ。私について来いと言う。おしっこの後にセックスする魂胆だ。仲間がはやし立て、わいせつな言葉をわめいた。私は、五メートルほど後をついていった。月と星は煌々とあたりを照らし、草むらには私の影が私の身長より長く延びていた。虫の声もうるさいほどに私たちをはやし立てていた。川の水は二日前の台風二号のせいで増水し、土手ぎりぎりまで迫り、滝のような音を立てて流れていた。なんだか詩的で、虎治たちさえいなければ私はとてもいい気分になりそうだったわ。川に向かって鼻歌を歌いながら放尿していた虎治の姿が、ふと掻き消えた。私は土手まで走り、それから川に沿って藪と木立を縫って走った。黒い影が浮き沈みしながら流れていく。私は先回りして、土手の木に手足をまつわりつかせてつかまって、黒い影を待った。助けようとしたのかしら、ポーズだけだったのかしら。虎治は両手を背泳選手のようにまわしていたが、
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦