郊外物語
一年前、真砂子は、達郎夫婦と知り合いになって喜んだものだった。玲子の育ちのよさはあたりを払うほどだった。お嬢様とはこういう人間のことか、と真砂子はうらやましさや嫉妬感を持つ余裕さえなく、呆然と見とれることがあった。クィーンズジャパニーズというものがもしあれば、玲子のしゃべりことばがそれだった。女子大を出てテレビ局に入社したと同時に、シナリオコンテストで大賞をとったと聞いた。幸運のついて廻る女性なのだ。局はすぐ辞めて結婚をしたそうだ。新婚旅行は、日本一周だったそうで、交代で運転したという。確かに、二人は、国内の名所旧跡を細かに知っていた。相手がいわば身分違いの達郎だったので、周囲のすべてから祝福された結婚だったかどうかは疑問だが、二十代の達郎が十分お姫様の眼鏡にかなう青年だったのだろう。真砂子は思った。達郎のこの一年での変化は、真砂子以上に玲子は感じているはずだ。その原因もわかっているはずだ。そして、達郎の変化は、玲子の変化を引き起こした。玲子が、義人への関心を深めてきたのもその現れのひとつだろう。いま玲子が関心を新たにするのは、達郎への失望というネガティヴな要因以外に、義人の、もしかしたら真砂子さえ気づいていない魅力を、玲子が見つけたという積極的な要因があるのかもしれなかった。そう思うと真砂子は夜も眠れなくなりそうだった。この一事だけではなく、真砂子の酔った頭には、今日の集いのあいだに沸いてきた様々の心配事、疑惑、憶測、妄想が渦巻いていた。見てはならないものがちらりほらりと見え始めていた。真砂子は、突然恐怖にとり付かれた。神に祈りたい気になった。どうかそれらが惨憺たる悲劇の端緒なんぞではありませんように!