郊外物語
部屋の中では、義人と玲子がディスコダンスに興じていた。真砂子は、看護学校に通っていたころ、ときどき週末に同僚たちと行った渋谷のハウスを思い出す。玲子もああいうところに出入りしていたのだろうか。地元紙の長者番付一位である山林地主のお嬢さんも、ああいうところに通っていたのだろうか。そこで達郎のようなチンピラにつかまって逃げられなくなったのだろうか。真砂子は下司な詮索心が頭をもたげて来そうになってあわてた。
達郎が入ってきたので、体がぶつからないように注意しながら彼と踊った。達郎はテニスばかりか踊りも前より下手になっていた。基礎体力が急激に低下しているのが原因だ。病気であるのは間違いない。さらに、精神の荒廃が、体の動きを投げやりにしている。一つひとつの動作に意義を見出せない、といった、心のふてくされが見てとれた。達郎は、わずか一年で変わってしまった。かつては、野生児の面影を残していた。義人よりもテニスがうまかった。はつらつとしていて、敏捷で、執拗だった。