郊外物語
真砂子は自信を持って心の中でマニフェストを唱えた、エリートの二人の典型的な物語なんぞが成り立たないようにと、私は突っ張ってきたんだ。才子桂人、貴種離譚、などの理念を終わらせるために、私が沖縄から、周辺から、異郷から、義人があこがれていながら怖がっていたところから、ジェット機に乗ってやってきたんだ。あんたら、わかってるのかい? おっといけない。沸騰しそうな心情は、控え、抑え、型に収めねばならなかった。 言いたい罵倒はレベル四・五以上に洗練しておかないと、いっぱしのマダムではない!
男二人がテーブルを移動させた。玲子と真砂子が立ち上がると、義人がソファをベランダに通じる窓にくっつけた。ダンスをすることになった。四人でダンスをするのはめずらしくない。義人と玲子は、いかにも習った様子がありありであるが、それなりに上手だ。この二人がダンスしたいがために、達郎と真砂子が付き合う羽目になると、少なくとも真砂子は感じている。達郎は下品なチークダンスで迫ってくる。それしかできないのか、そういうふりをしているだけか。いつもペアは、義人と玲子、達郎と真砂子という組み合わせに固定されていた。曲種は、最初はモダンジャズ、次がデキシー、最後はR&Bと決まっている。わずか1年の付き合いで、そういう習慣ができていた。真砂子はそのほかにもできてしまった習慣があったっけ?、と酔った頭で思いめぐらした。
達郎と何曲かダンスを踊った。達郎がささやく。君とは生育環境が似ている、精神の姿勢が似ている、発言を聞いていると他人事とは思えない、などと小娘にさえもせせら笑われるような甘事だった。それ以外にもなにやらささやいてきたが、酔った真砂子は内容がよく把握できない。