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郊外物語

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真砂子は、酔った頭で、自分の亭主と玲子とのありうる関係を想像してみた。
義人と玲子が、互いに関心を持ちあう理由はたくさんあった。真砂子は、そのような係わり合いがあるかもしれないということ、というよりは、係わり合いがないようにと心配するような境遇に自分があるようになったという満足感と、それに伴うちょっと不思議な惑乱を今楽しんでいた。
玲子がうちのダーリンにどんな経路で近づけるだろう? 達郎が真砂子に仕掛けている素振りはお笑いだった。しかし、お笑いを、玲子が義人に、義人が玲子に、やっていないか? お互いに、素振りで始めて、お互いに誤解をして、本気になってしまった、などという話はよくある。真砂子は、自分がそんなことはしていないという確認を、これで何回目かはわからないが、今またしたところだった。
義人と玲子とは、客観的には似合いのカップルだと、真砂子でさえつくづく思ってきた。才子、桂人を得たり。ぴったりだ。
ドラマの一話の意味づけにも、二人は、それぞれの役目をよく自覚して、そつがない。いまだに階級があるってことだろうか。そんなことを持ち出されては、こちらの立つ瀬はありゃしない、溺れる淵しかありゃしない。
真砂子は、義人と玲子が、四十に近くなってから、フランクに付き合えるようになった理由はわかっているつもりだった。二人とも貴種離譚をやっているのだ。いい気なものだ。
人間、勉強ができるかどうか、金があるかどうか、で切られていく。もともと貴族や天子のお血筋なんかだったら、ますますしようがない。勉強、金銭、血筋に関してのエリートたちが、戯れに、あるいは悲劇を気取って、俗界をふらついていて、結局、同族同士とくっつきあう。そんなありきたりの関係を、達郎と一緒になることで身をもって粉砕し、すすんで未知へと踏み出したからこそ、真砂子は玲子が好きだったのに。玲子が本来の自分にもどろうとしているとしたら、裏切ろうとしているとしたら……。
酔った真砂子は、湧き上がってやまない憶測を何とか振り切ろうとして、頭を左右に振った。そんなことをしたのでますます酔いがまわってきた。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦