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郊外物語

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「鹿野さんは、個人競技をスポーツとみなしてんの? あれは、原理的には、相手がいなくても成り立つよね。競技者が同じ向きを向いてる。百メートル競走は、ひとりずつ記録を計って後で比べても、たいした違いは出ないでしょ」
「スポーツの定義によるなあ」
「獲物なりマトなりが存在しないと、本来のスポーツとは言えんでしょうね」
「動物は肉弾戦しかできないから、格闘技がレベル一のスポーツとしよう」
「日御碕の突き落としもそのレベルだなあ」
「ままならなさが増すほど工夫がいるから、高級になる。道具を操ることと社会性を持っていることは、高級で複雑であることの指標になる。ヒトニザルから人への進化を見れば明らかだ。道具をひとつ使うのをレベル二にするか。素手でのキャッチボールがそうだな。バスケでもバレーでも対人パスを二人でやっている限りではレベル二に属する。ラケットは無視できないから、テニスや卓球はレベル三だ。三人以上の集団でおこなわれる場合はさらにレベルが上がるな。バスケ、バレー、はレベル三、ホッケーはレベル四だな。サッカーはレベル三だが、手を使わないというハンディは道具ひとつよりも間接性が増すだろうから、四をこえるぐらいか。野球は二種類の道具を使いわけるというきわめて特殊なスポーツでしかも団体競技だからレベルがホッケーより高くなる。つまり、サッカーと野球が、もっとも複雑で高級なスポーツだろう。なぜこの二つが大衆的な人気を二分しているかがわかるよね」
「すばらしい。さすが鹿野さん。発表したら?」
「だめだね。スポーツの差別化になる。相撲取りやボクサーが頭にきて攻めてきたらどうする?」
「そうなったら正当防衛だ」
達郎は小声で笑った。そのあと、真砂子は達郎の唇を見つめていたのでわかったのだが、声を出さずに、撃ち殺せばいい、といったように見えた。酔っているとはいえ、達郎の心のすさみに触れたようで、真砂子はぞっとした。
「野球やサッカーみたいに洗練されたスポーツの場合でも、観客や、時にはプレーヤーが興奮してあばれることがあるんだから、レベル一の興奮度は、よほど高いはずじゃない?」と、玲子が義人に向かって尋ねた。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦