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郊外物語

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「あれで結構亭主関白なのよ。横暴で傲慢でさ。口出さないのは、私の仕事に対してだけよ。そこにだけは一切不干渉なの。だから、さっき、ドラマの感想を口走ったけど、あれってほんとにめずらしいことなのよ」
ほほう、と真砂子は内心で嘆息した。達郎は、自分は恐妻家だと言っていた。自分の女房は白鳥麗子で育ったので、わがまま放題で、掃除洗濯まるでだめ。こちらは仕事柄時間に融通がきくから、主夫業ができるけれど、普通のサラリーマンだったら勤まらない。主夫業をさせて、奴隷としてこき使って、一生白鳥麗子を押し通そうという魂胆で結婚したに相違ない。達郎のそんな愚痴を真砂子は何度も聞いていた。
「あなたのお仕事を尊重してるんだからありがたいじゃない? 私もあなたみたいに個人プレーのできる能力を身につけたかったわ。まあ、資質ゼロの私だから仕方なかったけど」
「何をおっしゃいますか。私、あなたみたいな、意志の強さがあればなあ、と身をはかなんでいるのよ」
「えっ? あなたこそ意志堅固なんじゃないの? 意志力がなければ、脚本なんて書けるはずがないじゃないの」
「あれは自然にできてくるものなの。努力したという感じはないのよ。だからね、私、自分の書いたものを、実はよく理解してないんじゃないかと疑ってるの。私以外の、外の、別の力が脚本を書いているのよ」
「すばらしいじゃないの。才能がある証拠だわ。うらやましいなあ」
真砂子がそう言っても、玲子の気落ちしたような様子は消えなかった。小柄な体をシンクに浴びせるように前に倒して、唇をかんでいた。他人に言えないことを、この恵まれた育ちの、幸運な女が、胸に抱えて悩んでいるのか、と真砂子は思った。珍しい生き物を見るように、しばらく玲子から眼が離せなかった。普段の嫉妬心がしばらくだけなりを潜めた。
4人が揃うと、ワインで乾杯をした。時刻は八時を回ったところだった。BGは、サティのピアノとなっていた。二重窓がときどきがたつく。一枚だけ、咬み合いの悪いのが混じっている。入居した時から気づいていた。どうしてさっさと替えないのか、自分でも不思議に思う。外の木枯らしは、ますます勢いづいているようだが、室内の温度は十八度に保たれている。暑いくらいだ。さっきからそう感じていた。どうしてさっさと十五度に下げないのか。
男たちはスポーツ談義を始めた。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦