郊外物語
ひとしきりサザエを無言で食べると、四人はテニスについて語り始めた。
「近頃体力の衰えがはなはだしくってさ。まだ三十五だよ。この中じゃ、最年少なのにさ。もう、何とか楽して切り抜けたいとばっかり念じながら試合してるざまでね。足引っ張ってばかりいて、鹿野さんには申し訳ないと常々思っています。ゲームそのものは好きなんだ。負けるのが大嫌いで困ってるの。鹿野さん、最小のエネルギーで最大の効果をあげられるような、ずるい手はないですかね」
「スポーツに王道はないね」
「そんなつれないことを。見捨てないでくださいよ。へっ、次のパートナー、探してることぐらい、クラブでの態度でわかってますよ。僕を見捨てたら、マンションのベランダから跳び下りて死んでやる!」
誰も笑わない。
「そうだなあ。力を抜くことだろうな。おもちゃでさ、円盤の中心近くに穴を二つあけて糸を通しておいて糸を張ったり緩めたりして円盤を回転させるのがあるだろう。あれと同じにすりゃ楽だぜ。かがんだときは、糸が緩んだときに対応して、上半身と下半身が直角以上にねじれ、立ち上がったときは、糸が張ったときに対応する。腕も肩もぶらんぶらんさ。力はいらない。消耗しない。軽くスクワットするだけだ」
「そのスクワットが問題で」
「冗談だろ。この程度の浅いスクワットだと、一回するのに、階段を一段上るのと同等のエネルギーを消費するだけだ。階段は片足ずつ上るけど、この場合は、両足だ。これがきついんなら、駅の階段は上れないね。病院に行くべきだな。なんならうちに来るかい?」
「いやいや。コートの恨みをメスで晴らされちゃう」
再び誰も笑わない。真砂子は達郎のいかにも病人くさい顔つきや体つきを改めて眺める。自分ですら心配になってくるからには、女房の涼子はどれほど心を痛めていることだろうか。真砂子は、達郎とこっそり二人きりで飲み屋にいったときのことを思い出す。臭い息の記憶が戻ってくる。
「達郎さんの不健康をほっとくのは、さっさとあの世に追いやってもっと年下のジャニーズ系のタレントでもだましてやろうという私の遠大な計画の一環なのさ」
玲子が薄笑いを浮かべて言った。
「そんなことはとうの昔に承知のうえだ」
達郎が口を捻じ曲げて言う。
「ぼくも察しはついていましたよ」