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郊外物語

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義人はドラマの作者が達郎であることをようやく理解した。義人は近頃達郎をうるさがり煙たがるようになっていたが、達郎はもとから義人に大きなコムプレックスを持ち憎んでさえいたのだった。義人のパシリのふりをしながらも、いつか義人の寝首を掻いてやろうとうかがっていたのだ。そのことを義人は思い知った。達郎の憎悪がこれほどまでに強く深いのは何故か。義人は真砂子とよく似た達郎の母親を思い出した。達郎が真砂子に惚れていたのだから真砂子の夫である義人は達郎の父親の位置にいる。父親に対する憎悪が義人に転化した可能性があった。義人は達郎の父親がどのようにして死んだのか、想像してみた…… 達郎は義人に、このようなファザーコムプレックスだけではなく、社会的エリートに対する下層階級の怨念も抱いていたはずだ。しかしそれだけで彼の激烈な悪意は到底説明できない。義人は達郎が引き寄せられるように義人にまといつき弟分を演じながら憎悪するに至った必然性を探し求めた。悪が悪を嗅ぎつけ、同類の持つ親和感を刺激されて寄って来たのか? 自分よりさらに悪い悪に恭順しながらも、地獄に二人の悪魔大王はいらないと嫉妬し、壊滅をねらうようになったのでは? 義人は達郎の悪に照らされて露わになった自らの底知れない邪悪を思う。生まれや育ちや社会環境からは説明のできない、論理的で自律的な精神が持つ、純粋な邪悪。邪悪の中の邪悪を思う。

場面は成田空港第一ターミナルの北ウィングとなる。和久と外人女がそれぞれキャリーケースを引きずりながら歩いて行く。二人の子供はリュックを背負っている。女の子は外人女と手をつないでいる。

通路を隔てて義人の右側に坐っている中年女がしきりに義人たちをうかがい始めた。前方からやってきたアメリカ人のスチュワーデスも義人たちから目を離さない。

場面は機内に移った。和久、男の子、女の子、外人女、の順で座席に坐っている。義人達とまったく同じ順だった。義人は手配した達郎がほくそえむのを思い浮かべた。

機内がざわめいてきた。前方に坐っている者たちもふり向くようになった。はなはだしきは立ち上がってこちらを見てから眼を丸くする者までいた。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦