郊外物語
義人は、ドラマをよくは見ていない。今は漁師が多田和久から金をもらっているところだった。回想場面である。脅迫容疑で突き出されるよりはこちらからも伊都子からも金が入った方がいいだろうと和久がしゃべっている。場面が変わって伊都子を撲殺した後の猟師のすさんだ生活が描かれる。漁師は出雲に帰らず、ろくに働かず、和久から得た金で、競輪競馬キャバレー通いの生活を送っている。挙句の果てに和久に酒を飲まされ泥酔状態にされて高層ホテルから投げ落とされる。子供たちの家庭教師である金髪女と和久との濡れ場シーンとなる。和久が、伊都子に嫉妬させるためだけに小阪昭子といちゃついたのであって、本気なんかじゃまったくなかった、と外人女に言い訳をしている。何もかもお前のためさ、と女の耳元でささやく。義人は演じている二人の俳優がそれぞれ義人とデボラに姿かたちから声までそっくりであるのに気づく。作者の悪意に気づく。さすがに義人はデボラと子供たちを横目でうかがった。デボラだけが義人を心配そうに見かえした。孝治と奈緒は固唾を呑んで見ていた。乗客たちもまた固唾を呑んで見ていた。



