郊外物語
義人は深々とため息をついた。みんな、もう、眠ろうよ、と三人に声をかけた。さっきからこちらを見つめたままの日本人スチュワーデスにジュースを四人分持ってくるように伝えた。デボラと奈緒と孝治に睡眠薬を渡す。デボラには一錠、子供たちには咬んで割って半錠ずつ。ジュースが来た。義人も自分用に胸ポケットから一錠取り出した。変色したカプセル。父親がついに使わなかった青酸カリのカプセルだった。父親が実は息子の義人のために用意してくれていたような感じが義人にはした。義人の頭の中で、お前は生きていてはいけない、と父親が怒鳴っていた。義人は三人に笑いかけた。三人もそれにこたえてほほ笑んだ。目が覚めたら別世界だよ、と義人は言った。四人は揃って呑み込んだ。
前方の大スクリーンがラストシーンを映し出す。多田和久、妻の伊都子、小阪昭子、夫の繁がならんで銀杏並木の下を歩いている。四人ともテニス服を着て、ラケットを抱えている。冗談を言っては笑いあっている。彼らが通り過ぎる。後姿となる。ストップモーション。静止画のまま動かない。右から義人、真砂子、玲子、達郎だ。テニス仲間が実際に撮った写真が使用されていた。
みんなあんなに仲良しだったのに、もう誰もいない。
完



