郊外物語
達郎の遺体が警察からマンションに戻ってきたとき、住人達は通夜や葬式をどうしようかと話し合ったものだ。達郎に身寄りがまったくなかったからだ。ところが、一人だけ身寄りが現れて、火曜日には通夜兼葬式がひっそりと達郎の部屋で執り行われた。真砂子の通夜で忙殺されていた義人は、深夜近くになって達郎の部屋を訪れた。達郎の枕元に坐っていたのは達郎の母親だった。大阪の鶴崎にある朝鮮料理屋の店員をしているという。まだ若いその母親の顔を見て義人はびっくりした。真砂子にそっくりだったからだ。
達郎の死顔は無理に目を閉じさせられたことがありありとわかる驚愕の表情を浮かべていた。こんな顔を生前は見せたことはなかった。義人の寝室で酒を飲んだり馬鹿話をしたりあの写真を鑑賞したりしていた時、達郎は薄笑いを絶やしたことがなかった。密談は、パーティーのときにおおっぴらにすることが多かった。女同士でひそひそ話をする機会を与えてやるかわりにこっちにも男同士の話をさせろと彼女らに伝えたこともあった。
携帯を改造して偽のメールを入れておいたのも達郎の発案だった。偽メールを達郎はうれしそうに打ったものだった。デボラのことを話題にもした。義人は、手を出すなよ、お前、油断ならんからな、と達郎に言うと、玲子と交換でどうっすか、と答えた。越後屋、おぬしも悪よのう、と言うと、お代官様ほどじゃございません、と答えた。十二月の末にはデボラを縺れてアメリカに発ちたいから、真砂子をそれより前に追い出したい、というと、任せておけと威張っていた。年末で混むから早く席をとっておいた方がいいと言って勝手に三十日の予約をとりさえした。



