郊外物語
報道関係への対処と警察内での事後処理について、義人は袋田に相談を持ちかけた。義人の希望を袋田は黙って聞いていた。月曜日の朝刊に、達郎の死体が二十四日に発見され、重要参考人が翌日に自殺したことが載った。真砂子には逮捕状が出ていたが、公にはされなかった。実名も出なかった。玲子の事件の再捜査は打ち切られた。警察内ではこれらの件については緘口令が敷かれた。ほぼ義人の要求どおりとなった。
義人は袋田が面談を終えて玄関を出て行くときの言葉が耳に残っている。
「三角関係のもつれによる事件でした。世間にはよくあることですが、ご愁傷様です。失礼ながら同情いたします。まったく、男女の仲ってのは、本当のところはどうなっているんでしょうね。私もバツイチなんで、思いあたることがないではないんですよ」
そこで袋田はしばらく間をおいた。首を傾げて義人を見た。
「あなた一人が残った。あなたが一番……」
義人はギョッとして袋田の鋭い眼を見返した。
「一番……つらい」
義人は別の言葉が発せられるだろうと身構えていた。袋田は、義人の間違いでなければ、かすかに蔑みの表情を浮かべながら言った。
「もうお会いすることはないでしょう。失礼いたします」
腕組みをして目をつぶり瞑想にふけっている義人のわき腹を孝治がつついた。
「ダディー、始まるよ」
孝治に隣あわせで坐っている奈緒はそれを聞いて、左に首をねじるとささやいた。
「始まるってよ、マミー」
「わかってるわ」
デボラ・ド・マーニーは軽く腕を奈緒に押し付けながらほほ笑んだ。
九時数分前に連続テレビドラマ「氾濫」の最終回が始まった。前方の大型スクリーンにも肘掛を倒すと見られる小型モニターにも氾濫という題字が映し出された。通常は映画が上映されるが、人気ドラマなので、通信衛星を通じて機内で放映されることになった。
義人は見るともなく前方の画面に顔を向けていた。しかし、頭は回想にふけるのに忙しかった。



