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郊外物語

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成田発ワシントンDC行ボーイング787機672便は離陸してまだ五分しか経っていなかった。午後九時前であるのに、シートを倒して眠りに入ろうとする乗客もいる。ファーストクラスのシートは完全に水平になるから、坐り心地だけでなく寝心地もよいのだ。
鹿野義人はここ一週間ろくに眠れなかった。しかし眠気など催さない。新年早々に開かれるアメリカでの学会のこと、将来の自分のポスト、将来の生活等々考えるべきことは多かった。しかし眠りを妨げているのは過去の記憶だった。

二十五日の十一時に、警視庁から義人に電話があった。真砂子が急死したのですぐ自宅に帰るようにと伝えてきた。続けて携帯が鳴り、捜査一課の警部が、真砂子は自殺した、子供も含めてこのことを他言しないようにと伝えてきた。
帰宅した義人はベッドの上に横たわる真砂子の遺体と対面した。頭部が二倍以上に膨れ上がり頚椎が脱臼していた。
人払いをしたリビングで、電話の主である捜査一課の袋田警部と話し合った。
袋田は、真砂子が前々日に達郎を殺害し、玲子をも殺害していたと語った。義人は驚いていた。期待以上の結果だったからだ。
玲子を抹殺したいという達郎の欲求と、真砂子を放逐したいという義人の欲求がうまく重なって共同謀議が成立した。抹殺の仕方は達郎の発案だった。達郎は真砂子自身をも要求してきたが義人にとっては渡りに船だった。警察が真砂子を殺人犯として逮捕するか、こちらが真砂子の不倫を明らかにして離婚するか、どちらでもよくなった。しかし真砂子のアリバイが成立してしまった。達郎の合成現場写真は警察の専門家には通用しない。しかも達郎は真砂子を自分のものにしておきたがった。義人はそのうち不倫の証拠を突きつけてから真砂子を達郎にくれてやろうと思った。ところがこんな結果である。真砂子を永遠に放逐出来た上に、秘密を握られてうるさく思うようになった達郎まで消えた。義人に文句はなかった。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦