小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

郊外物語

INDEX|191ページ/197ページ|

次のページ前のページ
 

真砂子は縄跳びを八の字に結んだ。一方の輪に首を通し、もう一方をフックに掛けた。義人のローブを背中につけて正面を向いた。鏡があった。
なんて顔をしてんの。ハレの出発だっていうのに。けど、今だけじゃなくて、ずっと、生まれつき、こんな顔だったんだもの、仕方ないや。ひどい馬鹿面だぁ。馬鹿は死ななきゃ直らないのね。生まれてこなけりゃよかったんだ。私がいなけりゃ玲子さんだって達郎だって生きてるはずだ。義人や子供たちだってもっと幸せな人生を歩めたはずだ。私は大切なことや真実を知らなかったんだ。破れてしまった私の夢は、私の愚かしさが生んだ幻影だったんだ。そんなものに引きずられて。馬鹿な私。神様、ひどいじゃないですか。頭の悪い人間を生まれさせないでくださいよ。他人に散々迷惑をかけて、不幸にして、場合によっちゃあ死に至らしめるんですよ。そんなふうにしか生きられない人間なんか作んないでくださいよ。
真砂子は揃えた両足を少しずつ前へ出していく。
ああ、義人さん。あなたは私の理想の男性だったわ。私の先生、親友、恋人、父親、守護神。どうもありがとう。心から感謝するわ。私のような女と結婚してくれて。あなたとの暮らしは天からの授かりものだったわ。だから、義人さん、私とのことが最後にこんな羽目になってしまって、おわびのしようがないの。ごめんなさい、ごめんなさい。愛してる。愛してるわ。ごめんなさい。本当にごめんなさい。ああ、義人さん、大好きだよぉ。
両足がさらに前へ出る。
鏡の縁から、もう私の顔は上半分しか出ていないや。もうすぐ沈む。沈む。イヤーだぁ。なんでこんなときに虎治が出てくんのよ。水面から目だけ出てたよね。助けてください! 助かるもんか! ……けど、この土壇場で自殺を中止したとしたら? 捕まっても死刑にならなかったとしたら? 歳とって出所して全く別の人生が始まるとしたら?……
両足がすべった。からだがくの字になった。尻の下には何もない。真砂子の脳いっぱいに濁流が溢れた。踵が床を連打する。耳から血が出る。眼が破裂する。

十二月三十日 金曜日
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦