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郊外物語

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午後五時。
鹿野家のリビングは別世界のように光り輝いていた。昨日世田谷のパーティーで使ったものを三人がリュックに詰めて持って帰り、みんなで何時間もかけて飾り付けたのだった。真砂子は左手だけしか使えなかったが。
ベランダ側のソファには、孝治と奈緒が坐り、義人はテレビモニターを正面に見てライブラリー側の席の真ん中に坐っていた。真砂子は義人とやや間をあけてソファの端に坐っている。テーブルの上にはペキンダッグ、数本のチキンの脚、直径二十五センチのデコレーションケーキ、大皿に盛ったオードブル、鉄鍋に入ったチャンプルー、二本のシャンパンが載っていた。四人ともにこにこと楽しそうである。特に子供たちは興奮していた。昨日は世田谷で大パーティー、今日は内輪で一家団欒、明日から冬休みが終わるまでずっとまた世田谷にお泊りだ。義人は明日午前だけ勤務し、午後に病院内でのクリスマス会に出席すると御用納めとなり、新宿で真砂子とデートして世田谷に向かう予定だった。
今晩の料理はほとんど義人と子供たちで準備した。車を運転中、自転車を避けようとして右手に力を込め過ぎた、と真砂子は言い訳をした。孝治はそれを聞いて外人のように首を振りながら肩をすくめた。奈緒は、ああマミー、かわいそう、と言いながら包帯に恐る恐る触った。義人がケーキや鳥を切り分けた。それを見ていて真砂子は危うく嘔吐しそうになり、目をつぶってしまった。義人と孝治はしゃべりまくっていた。世田谷のこと、学校のこと、病院のこと、ゲームのこと、はては異文化交流の可能性、グローバリズムの意味、今後の世界情勢と話題は尽きない。奈緒も頻繁に口をはさんだ。真砂子はついて行くのが精一杯だった。奈緒にさえ負けそうだった。真砂子は近頃の奈緒のおませ振りに驚いている。
義人がライブラリーに行って聖歌のCDをかけた。おしゃべりがやんでみんな神妙な顔つきになった。義人がシャンパンの栓を抜いた。奈緒が耳を両手でふさぎながら真砂子に笑いかけた。もう一本、子供用のシャンパンの栓も抜く。各自のグラスにシャンパンがなみなみと注がれる。歓声があがる。乾杯。どこかそれほど遠くないところから救急車のサイレンが聞こえてきたが、誰も気に留めない。

午後七時十五分。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦