郊外物語
達郎が右手で真砂子の巻きスカートを左右に開こうとした。留めていた安全ピンが壊れた。
「死ぬことがなんで大変なんだ? 生まれた時から毎晩誰でも睡眠をとるじゃないか。それだけ予行演習をやってるんだからみんな死ぬことのスペシャリストだ」
「死ぬのを強制する権利なんて誰にもない。死んだら何にもできないじゃないか!」
真砂子はべそをかきはじめた。
「出来ないという自覚がすでになくなるから出来ないにはならない。なんでこんな簡単なことが解らないんだ? 生きていて出来ることにも意味なんかないがね」
「何言ってんの。あんたの独断や偏見を聞いてもしょうがないわ。人間、生きてる限り、大抵のことは出来るわ。それも大いに意味あることをね」
真砂子は、下着を剥ぎ取られた。
「馬鹿だねえ。まあいい、そうしとこう。人殺しだって出来たんだからな。 しかし、人殺しが人を殺してはいかんと主張するとはおもしれえや」
真砂子は力いっぱい脚を閉じた。
ベランダから玲子がこちらを覗いている感じ……
「お前、ほかにもやばいことやってきただろう? 隠していることがあるだろう? 俺にはわかるんだ。ぷんぷん臭うんだよ」
「あんたのレベルに引き摺り下ろさないでよ。私は真面目にやってきたんだ!」
達郎は顎を上げ、身を震わせて笑った。テーブルも震えた。
「お前の生まれ育ちの卑しさはバレてんだよ。じたばたしても繕いようはない。お前はしょっちゅうバッハを聴かされてるけど、いいと感じてないだろう? 俺もあんなのなんか聴かねえよ。好きなのはりんご追分だ。ほーら、正直だろうが」
達郎は真砂子の両膝をこじ開けて割って入った。達郎は腰を揺すり始めた。テーブルも仔犬の夜鳴きのような音を立てた。
真砂子の涙は止めどなく流れた。揺すられながらなぜか母親を思い出した。あんまー、とつぶやいてしまった。達郎は聞き逃さなかった。
「あんまー? 沖縄語の母ちゃんか。俺の父親はバチが当たってとうの昔に死んだけど、母親は生きてる可能性がある。日本国中車で走り回って探したがついに見つからなかった。俺を避けていやがる。仲居かウエイトレスか。歳だからまさかキャバレーのホステスはないよな。飲み屋の雇われ女将ってとこか。どうせ男がくっついているだろう」



