小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

郊外物語

INDEX|180ページ/197ページ|

次のページ前のページ
 

「?達郎さん、よく聞きなさい。あなたはほんとはいい人なの。自分に正直になって。あなたが正しい道を歩むためには、私、なんでもするわ。私の目を見てよ。私は、心の底からあなたを愛してるのよ。私の言うことを聞いて。お願い? そら、お前だって虫唾が走るだろ。いくら止めろと言ってもやめなかった。俺についてのくだらない余計な知識を、さも自分だけが握ってる秘密であるかのように思ってのぼせやがって。偉そうに俺を指導したり教育したり。なにせ熱心なクリスチャンだ。葬式で十字架を吊るしてやったのは、あいつの親父への面当てだけではなく、会葬者があいつの頑迷さを想像して不快になればいいと思ったからだ。地震でぶち割れたのには喝采を送ったぜ」
真砂子の脳裏にかわいらしくてひたむきで誠実で努力家で真砂子を姉のように慕っていた玲子の姿が突然出現した。仲良くペッパー警部を一緒に歌った玲子…… 何たることを自分はしでかしたのだろう。真砂子は震えながら大声を出した。
「だからって、私に殺させて、あんた、なんとも感じないの? ああ、ひどい、ひどい、ひどいよぉ!」
真砂子はテーブルに脚を掛けるとそれを乗り越えて達郎にむしゃぶりついた。達郎は片手で真砂子の胸を突いて跳ね飛ばした。真砂子はテーブルの上にしりもちをついた。達郎が馬乗りになった。降りてくる達郎の赤黒い顔を真砂子は殴ろうとしたが手首をつかまれテーブルに貼り付けにされてしまった。右手の傷口が開いたらしく、疼痛が拍動する。
「おれは、肝臓癌なんだ。余命幾ばくもない。ふん、これだけ飲んできたんだから死ぬわなあ。会社は辞めた。玲子の保険金で暮す。したいことを急いでしておきたいんだ」
「だからめちゃくちゃしてもいいっていうの」
「めちゃくちゃなんかしていない。今までどおりにしているだけだ。ただ急ぎの用になってるだけだ。俺は世間の目から見たら悪だろうが、世間の人が心の底でやりたがっていることをしているだけだ」
「人殺しなんか、誰がやりたいもんか!」
達郎は左腕の脇を真砂子の右上腕に乗せると、真砂子の後頭部にまわして真砂子の左手首をつかんだ。
「そうかな? 殺したい人間の二人や三人、誰にでもいるさ。無用な人間や邪魔な人間を殺して何が悪いんだ」
「自分が気にくわないからって、殺していいのか! 死ぬって、大変なことなんだよっ」
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦