郊外物語
「お前、やっぱり馬鹿だな。そう言っとけばお前は何回も見るだろうに。その気になりやすいお前は、ドラマに感化される。そして現実にそんな場面に遭遇した時に、ついドラマの登場人物と同じ動きをしてしまうんだ。あのドラマは俺が書いた。お前の行動を想定して書いた。確率の問題ではあるが、お前が実行する可能性に俺は賭けたんだ。そして成功した。俺がいかにお前という人間の本性を把握していたか、よくわかるだろ? 完全犯罪だ。俺は具体的になんら手を出していない。お前が勝手に動いただけだ。物的証拠は何もない。お前は俺の代わりに玲子を殺した。そして俺のものになった。我ながら完璧だった」
真砂子はソファに崩れ落ちた。自分のしたことはいったいなんだったのか。赤いドコモの携帯が眼の先にちらついた。
「じゃ、玲子さんと義人は?」
「俺の知る限り、なんでもなかった。鹿野さんの携帯と同型のやつを飲み会の時にベッドの下に放り込んでおいた。玲子はお前に殺される時、さぞや訳がわからなかったろうな」
「私はあんたにだまされて無実の人を殺したのかっ!」
達郎は悪魔のように高々と笑った。
「無実! 確かに! 俺にとっては無実ではなく無用だったんだ。あいつは相続すべき財産が全くなくなった女になったんだ。なのに、いつまでも俺に命令を下したり保護者ヅラしたり。あいつはしつこくて聞き分けがなく、すぐヒステリーを起こし、すぐ泣き、俺を食いものにし、俺から離れようとしなかったんだ。この俺を悪の道から救おうとしていたんだ。笑わせる。こんな調子だ」
達郎は気味の悪い裏声で玲子のしゃべりを真似した。それがまた実によく似ていた。



