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郊外物語

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達郎は真砂子の体を抱きかかえて土手に投げ、股に張り付いたロリエを剥ぎ取ると、自らのズボンを下ろして、すぐに挿入してきた。達郎のそれだけが真砂子の体の中で熱を持っていた。真砂子は、ちくしょうめ、ちくしょうめと歯を打ち鳴らしながら繰り返しわめいた。

真砂子は殺されなかった。達郎が離れると、真砂子は這い回りながら無言で身づくろいをした。濡れた衣服でもないよりましだった。体中が震えているのでうまく着られなかった。ファスナーのタグをなかなかつかめなかった。
達郎はタバコを吸いながら見物していた。雪がタバコの先に触れて何度か火が消えかかった。吸い終わると車の後ろにまわって釣り用の大きくて重いポンチョを取り出し、真砂子に投げてよこした。真砂子が見向きもしないでいると、凍死するぞ、と言った。真砂子は、今死んでたまるか、と思い直し、それを着た。そして土手を這って上がった。道をいくらか下ったところで卒倒した。
気がつくと車の助手席に横たわっていた。シートは後ろに倒してあった。室内は亜熱帯のように暑い。ポンチョの下の体には至るところに懐炉が挟んであり、濡れた服が生ぬるいほどになっている。窓の外には宵闇の中にネオンがきらめき、町の騒音に混じってジングルベルが聞こえてくる。雪は止んでいた。
「八王子に着いた。着替えを買って来るから待ってろ」
達郎はスーパーの駐車場の隅に車を停めて出て行った。
周囲の高層ビルには点々と明かりがともり、真砂子を見下ろしていた。中央線の電車が通ると車の中がほの明るくなる。車輪の音が遠のき低まり、ため息をつくように消えて、電車が駅に止まる。駅の案内放送は聞こえるが、ドアの開く音や乗降客の足音は聞こえない。いや、聞こえてはいるのだろうが、他の音にまぎれて特定できない。話し声、音楽、足音、車の音に真砂子は耳を澄ます。そして納得した。これらの音は真砂子にとっては懐かしい喧騒だが、もはや、真砂子を拒絶するよそよそしい別世界のものだった。それは、もう自分が元には戻れないという宣告に聞こえた。
うっすら汗をかいているのにときどき体全体に悪寒が走った。熱がある。鼻水は拭いきれない。喉も痛い。右手はタオルで縛ってあったがとても痛い。不整脈が出るたびに胸が騒ぎ立つ。失禁の痕があった。真砂子は屈辱の中で睡魔に負けてしまった。失神かもしれなかった。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦