郊外物語
ブーツをとおして川の水そのものは入ってこなかったが水の冷たさが滲みてきた。熊笹の垂れた川の浅瀬は踝までの水深だった。石の少ないところに足をついて真砂子は走る。与那嶺川が目に浮かんだ。急いで頭から追い払った。義人のために、孝治と奈緒のために、この場はなんとしてでも切り抜けなくてはならなかった。
大きな音がしたので振り返る。車が仏塔を打ち倒したのだった。卒塔婆は踏みしだかれた。車は土手を斜めに下りてくる。やがて真砂子と並んで走り始めた。盗み見ると達郎と眼が合った。達郎はにこにこ顔だ。車が真砂子を追い越した。真砂子は立ち止まり、回れ右をして上流に向かって走った。泣き喚きながら懸命に走った。
蒸気の音がした。ふり向いた真砂子は、川の中央でこちら向きに態勢を整えた車を見た。車体の腹から水蒸気が左右に立ち昇っていた。やがてエンジンの音がいななくようにひときわ高まると、車は身を震わせて真砂子に向かって発進した。
真砂子は膝の震えを止められない。エンジンの唸りと跳ね散る水音が追ってきた。真砂子は倒れて水中に四つんばいになった。すぐさま立ち上がったが、轢かれそうなくらいに車は迫っていた。ドアの開閉する音がした。右肩を強く引っ張られ体が捩れた。目の前に達郎の笑いを浮かべた悪鬼の形相があった。真砂子は両足を川に漬けたまま、土手に仰向けに押さえつけられた。
ポシェットのスナップをはずされた。オーバーのファスナーを引きおろされた。ベルトをはずされた。真砂子は両足で達郎をめちゃくちゃに蹴った。達郎はその両足を脇にはさむと、ジーパンの裾をつかんで後ずさりした。真砂子は悲鳴を上げる。背中が土手を滑って川の中に落ちた。腰から首まで水浸しになった。なんという冷たさ。達郎はさらに上流に向かって小走りで後ずさりして行く。いくら両手でズボンを押さえても、ぐいぐいと強く反動をつけて引かれるたびに脱げて行く。縁が尻まで達した後は、するりと抜けてしまった。真砂子にはもう抵抗する力が残っていなかった。達郎は、覆いかぶさってきて真砂子のパッチとパンティを引っつかみ一気に膝まで剥いてしまった。ブーツのジッパーを下ろして靴と下着類を土手に放り投げた。真砂子は下半身裸で川の真ん中に投げ出された。真砂子はもう冷たさも感じない、恐怖も屈辱も感じない。達郎に対する憎悪しか感じていなかった。



