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郊外物語

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なぜ自分を殺そうとするのか。達郎が玲子をあまりに愛していたので復讐したいからだろう。手に手をとって駆け落ちしたほどの仲だからそれはそうだろう。しかし玲子の方は最後まで達郎を愛していたとは思えない。玲子が義人にあてたラブレターのことを達郎に暴露して、達郎の玲子への愛情がすでに一方的なものになっていたという事実を伝えて、達郎の玲子への愛の幻想にひびを入れれば、達郎の、はやる心も萎えて、助かる道が開けるかもしれない。
「あのねえ、お宅の奥さん、うちのと……」
「黙れ、うるさい」
「誤解があるのよ。説明させてちょうだいよ」
「……知っている」
「なんですってぇ? 知ってるって? ねえ、何をどこまで知ってるの?」
「みんな知ってる。うっるさい、黙ってろ!」
「黙んないわよ。あんたの奥さんが何してたか知ってたって言うの? じゃあ、なんで放っといたのよ」
「いいか、おれが放っておくはずがないだろう」
「じゃあ何で玲子さんはうちのと、土壇場まであんなに親密にしていられたの。いい気なもんだったわよ。おびえも警戒もしないで、ぬくぬくと安心感に埋もれていたわ。邪魔が入ってたら、ああはしてられないはずよ」
真砂子は、達郎が知ったかぶりをしているのではないかと疑った。玲子と義人のことを今初めて知ったのかもしれなかった。自分の無知を隠すため、プライドを守るために、わざとぶっきらぼうに応答している可能性があった。そうすることで自分の動揺を抑えようとしているのかもしれなかった。もしも彼が内心狼狽しているのなら、玲子に対する不信を決定的なものにするまで、さらに言いつのっていかねばならない。
「玲子さんはね、うちのと少なくとも半年前から、関係があったのよ。専用の携帯をお互いに持ってたようよ。義人さんの携帯の中身は全部見たわ。私、嫉妬で狂ったわよ。玲子さんのこと、殺してやろうと思ったわよ。で、思ったとおりにしたのよ」
達郎は、言い放った真砂子の顔を左眼の端で眺めた。達郎の横顔に笑いが走った。憐れみとさげすみと同情がこもっていた。慈しみととってもかまわない何ものかだった。達郎は、つぶやいた。
「……おまえを恨んではいない」
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦