郊外物語
川にかかったコンクリート製の橋は頑丈そうだった。その向こう側には、高さ3メートルほどの太い門柱が立ち、左右に同じ高さのアスベストらしい壁が延びていた。蛇腹の鉄柵でできた門は閉まっていた。右側の門のすぐ手前に門衛の詰め所がある。道路は門の後ろから右へ迂回しているのでどこの何に続いているのかわからない。左側の門柱の上から監視カメラが見下ろしていた。門の上には有刺鉄線が巻きつけてあり、壁の上には外側に向けて斜めに先のとがった鉄の棘が埋め込んである。それにも有刺鉄線が絡ませてある。全体として刑務所によく似た施設だ。実は花火工場だ。暴力団や過激派が火薬をねらって侵入するのを防ぐために、厳重な警戒態勢を敷いているのだった。
車は橋の渡り口を左に見てさらに登って行く。もう道路は舗装されていない。車は前後左右に揺れる。
川を挟んで道路と平行に続いていた壁が途切れた。直角をなす塀の隅にも監視カメラが据え付けてあった。気のせいかその首がこの車を追っているように真砂子には思われた。
どこに連れて行かれるのか。前方には相変わらず杉木立が作るトンネルが待っているだけだ。他人のいそうな場所は、花火工場で最後だった。もうこれからはひと気がなくなる。携帯も通じなくなるだろう。叫んでも誰にも聞こえないだろう。これ以上前進してもらっては困る。
真砂子は恐怖のあまり目が潤み前方の景色がぼやけた。耳鳴りがし始めた。シ、と、キ、のあいだの音が高い音程で響いていた。
車のバウンドがますます甚だしくなり、トランクに入っている何かの音が耳につくようになった。重そうな金属製の器具の跳ねる音がする。もっと柔らかい、しかし重そうな、もったりした音もする。工具の類と思われるものの弾む音もする。真砂子は、それらがなんであるのか妄想をたくましくした。
大きなスコップだろう。荒縄だろう。ペンチや針金だろう。みんな人を殺して埋めるための道具だ。
殺されるかもしれない。



