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郊外物語

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真砂子はジャンプするような勢いで右腕を伸ばして携帯を掴み取ろうとした。達郎は、ほとんど何気なくに近いくらいの優美な動きで、携帯を右手に移し、左手で真砂子の手首をつかんだ。その手を真砂子の右腿の上に押し付けた。真砂子は目の前に垂れている達郎の左耳たぶを噛み切ってやろうかと思ったが、体は反射的に跳び退いてドアに張り付いた。ドアガラスに左側頭部をぶつけた。達郎は、左手を滑らせてシートについた。かすかに笑い声を上げながらそれを引っ込めるとハンドルを握った。数秒間、ハンドルを持たずに車を走らせていたことになる。
「無駄な抵抗はよしな。あっちこっちにコピーが置いてある」
だみ声が響く。
ガラス窓に額を押し付けている真砂子の背後からジッパーを引く音が聞こえた。真砂子はついふり向いてしまった。達郎は喉元までジッパーを引き上げ、右手もハンドルにかけ、背筋を伸ばして正面を向いた。
「あそこからしょっちゅう自分のうちのベランダを見てたんだ。俺もこんなとこに住めるようになったか、と思いながらな。かみさんの姿を見たのは初めてだよ。撮っとこうと思ってさっそく携帯を出したね」
「玲子さんがベランダに出てるって、あなた知ってたじゃないの。私に携帯で、飾り付けをするはずだって言ったでしょ。偶然玲子さんを見たような口をきかないでよ!」
「ははっ、そうだったな。玲子とあんたがレズっぽく仲よさそうに飾り付けをしている絵を撮れると狙ってたんだ。ところがとんでもないものが撮れちまった」
テレビドラマに出てきた目撃者である漁師が、真砂子の頭に浮かび、達郎と重なった。真砂子は、漁師が伊都子を脅迫して挙句の果てに殺すように、達郎が自分を脅迫して殺害することを想像した。自分が撲殺される場面を繰り返し思い描いた……
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦