小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

郊外物語

INDEX|157ページ/197ページ|

次のページ前のページ
 

駅の南側で、中央通りは緩やかな上り坂になる。一キロほど駅から離れたところが峠となり、そこからはだらだらの下り坂となって中央高速のインターにつながる。
駅と駅の影を通り過ぎてすぐに、達郎が口を開いた。
「事件当日のあんたの行動……」
「待って!」
真砂子は、危うく達郎の口にぶつかりそうなくらいに、右腕を相手の体の前に突き出した。自分の手が風に吹かれる木の枝のように震えているのが見えた。手を引っ込めた。両手を腿の上に当てて正面を見た。そして、何度も練習してきたとおりに、一気に弁明のための大演説をした。時々間を取る際に、達郎を覗き見た。達郎は、前方を向いたまま黙って聴いていた。しゃべり終えても達郎が黙っているので、説得力が足りなかったのだろうと不安に駆られ、弁明をいくつか続けざまに追加した。商店やビルが後ろに走り去るように、たくさんの言葉が走り去った。さあどうだ、と右を向いてみても達郎は前を向いたままだった。おずおずと言ってみた。
「……反論の余地がある?」
達郎は声を上げて笑った。
「あんた、やっぱり馬鹿だよね。俺が警察の発表を鵜呑みにして、事故死だと思っていたかもしれないじゃないか。それを確かめないでしゃべっちゃってさ。余計なことを言って、とんだやぶ蛇になりかねないだろうに」
一瞬達郎の言うとおりかもしれないと思ってしまった。達郎の横顔を必死で観察した。達郎はかすかに左の眉をしかめた。その分だけ左目が細くなった。その表情を崩さないままに、達郎は車を歩道に寄せて一時停車した。真砂子は全く自信がなくなった。
そこは、スターバックスの斜め手前だった。しかし、駐車場に入らないということは、ここでコーヒーを飲むつもりは達郎にはないらしかった。
「俺は店の中から見たけれど、ここからのほうがよく見える」
達郎は不思議な言葉をつぶやいた。
「バックミラーを見なよ」
真砂子は、つばを飲み込みながらおずおずとミラーを見た。
そこには、JRの駅が魚眼鏡特有のゆがみをもって映っていた。今くぐってきた中央通りをまたいでいる駅だ。
「駅が見えるけど。それがどうかしたの?」
「その向こうに何が見える?」
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦