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郊外物語

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窓の外には、師走の街が流れていた。駐車場を出てすぐの道を右にたどると中央通りに出る。そこを右折すると、マンションの正面玄関を右に見て、JRの駅に向かうことになる。
少なくとも三種類のクリスマス曲が、少なくとも十ヵ所の音源から聞こえてくる。片側三車線の通りは、日曜日なのに渋滞気味だった。真砂子は、ときどき停止を繰り返す車の窓から、歩道を歩く人々とその向こうに並ぶ商店街やスーパーを、何に注目するでもなく眺めていた。急に眼が誰かを追い始めた。昨日まで一緒に斎場で働いていた人だ。同じマンションに住んでいる緒方さんの奥さんが、小学一年生の息子の手を引いて通り過ぎていく。正和君は奈緒と同じ幼稚園のツバメ組だった。奈緒の通う小学校を受験したが落ちてしまった。正和君は、マンション内や近所で奈緒と会っても口をきかなくなった。母親までが真砂子を避けるようになった。斎場でもお互いにギクシャクしながら肩を並べていた。受験による選別制度が人の心を荒ませる例を初めて身近に経験した。その正和君がたまたまこちらを向いて真砂子の顔を捉えた。すぐに右手を引いて母親に合図した。問いただしている母親。正和君の母親が自分のほうに顔を向ける前に、腰を前へずり落とす。適切な反応である自信はない。むしろ作り笑いをしながら会釈したほうがよかったかもしれなかった。妻の葬式の翌日に、とり残された亭主とどこかへ車で行こうとしていた女として、噂が広がりそうだった。以前の調子でこの車に抵抗なく乗ってしまったことを後悔した。達郎は、うかつな真砂子と違って、顔見知りに見つかるぐらいのことは承知の上だっただろう。ありそうなのをわかっていて強行した達郎の気持ちが真砂子にはわからない。ほとんど停止していた車が勢いよく前へ出た。真砂子は、緊急に立ち向かわねばならない大問題があったので、たちまちそんな小さな引っ掛かりなどその場に置き忘れてしまった。
JRの高架線を、上から響いてくる電車の発車する音を聞きながらくぐった。駅が道路を垂直にまたいでいるのだ。道路の真上がちょうどプラットホームの中央部にあたる。道の両側に改札口がある。左手側が東口、達郎の坐っている側が西口だ。高架下の駅以外の部分は、東西とも三百メートルほどにわたってモールと食堂街が延びている。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦